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【検証】小説を一冊書くにはどれぐらいの時間が必要なのか?~文字数編~ &レイアウトからみる新発見

 

 

今回からは、小説を一冊完成させるまでにどれぐらいの時間が必要なのかというテーマで考えてみたいと思います。

と言っても、
  1. 書くスピード
  2. 執筆に当てられる時間
の2つの条件で大きく違ってきそうですね。それぞれの個人差も考慮しながら紹介していきたいと思います。

 

 

一冊の小説は何文字でできているのか

では早速検証!

と、書く速度や時間も重要ですが、そもそもゴールまでの量はどの程度なのでしょうか。

量というと、小説の世界では400字詰め換算枚数や字数で考えることが多いです。

よく目安にされるのは10万字という数字です。ただ、かなりジャンルや作品によっても違いそうですよね。

非常にざっくりではありますが、管理人の手元にある小説から選抜した6本で計算してみました。ちなみに全て文庫版です。

計算は

ページ数×1ページの行数×1行の文字数×80% で行いました。

80%は、改行や空白があることを考慮してのものです。本当にざっくりで恐縮です。

ちなみにページ数は本文のみです。あとがきなどは除いて計算しています。

 

6冊の本でカウントしてみる

十角館の殺人/綾辻行人

446ページ×16行×40文字×80%=22万8352字

 

となり町戦争/三崎亜記

264ページ×17行×38文字×80%=13万6435字

 

アルジャーノンに花束を/ダニエル・キイス/小尾芙佐訳

470ページ×15行×38文字×80%=21万4320字

 

アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎

356ページ×18行×42文字×80%=21万5308字

 

ドグラ・マグラ(下)/夢野久作

374ページ×18行×40文字×80%=21万5424字(参考記録)

 

ダイナー/平山夢明

513ページ×16行×39×80%=25万6089字

 

検証結果と雑感

一応、できるだけジャンルが被らない選別にしてみました。ドグラ・マグラは途中でフォントが変わるところなどもあり、参考記録です。フォントすら自在。恐るべしドグラ・マグラ。

本当はライトノベルなんかでも検証してみたかったのですが、単純に手元になかった…。か、官能小説もありませんでした…いや本当に!

カウントしてみて思ったこととしては…

ほとんど20万字越えじゃん!

6本中5本が20万字を超えてましたね。商業として出回っている本は20万字前後が多いのかもしれません。

確かに、となり町戦争は三崎亜紀さんのデビュー作であり、公募で第17回小説すばる新人賞を受賞しての出版ですからね。他の5本とは出版までの経緯が異なるというわけです。

では公募以外で出版された本は20万字ないと出版できない決まりでもあるのかというと、そうではないでしょうね。

読んだ感覚や本の厚さからも上記5本より少ない本はたくさんありますし。ただ、一冊の作品として評価されるための情報量、ストーリー、描写を盛り込んでいくと20万字前後のものが多くなるといったところでしょうか

もちろん、ドグラ・マグラはそもそも上下巻で完結ですし、もっと巨大長編のものもたくさんあります。

気になって世界一長い小説を調べてみたところマルセル・プルースト著「失われた時を求めて」とのことです。おお、タイトルぐらいは聞いたことがある。1913年~1927年に14年かけて作られたこの作品の文字数は、960万9000字!

1冊20万字理論でいくと、50冊近い本を読んでようやく読み終わる計算…すごいですね。日本では文庫本13巻完結ぐらいで販売されていることが多いようです。むしろ13巻で収まるんだ…それもすごい。

しかししかし、失われた時を求めてはそんなにも長い作品でありながら世界的に高い評価を受けているそうです。長くても短くても、その作品に適した文字数を選べばよいという話であり、この自由さが文芸の魅力の一つかもしれませんね。

 

新人賞応募作の文字数

本屋さんで実際に売られている本の字数は分かってきたわけですが、アマチュアで小説を書き、新人賞を狙いたいという層はどの程度の字数を書けばよいのでしょうか。

上で挙げた三崎亜紀さんの作品の例からも、新人賞の字数はもう少し少ない可能性もありそうです。

また、一般かライトノベルか、長編か短辺か、純文学かエンタメかなどでもかなり違ってきそうです。そもそも賞による違いも大きいと思いますので、これも実際に数えてみることにしました。

 
<エンタメ> ポプラ社小説新人賞
まずは、管理人が先日落選したポプラ社小説新人賞から。
<応募規定>
400字詰め原稿用紙換算200~500枚
400×200×80%=6万4000字
400×500×80%=16万字
およそ6万~16万字といったところでしょうか。ちなみに管理人が送った作品は13万521字でした。なるほど、確かに400字詰め原稿用紙換算で420枚ほどでした。400×420×80%=13440なので、計算は大まかな目安として合っていそうです。
<純文学> 文藝賞
<応募規定>
400字詰め原稿用紙換算100~400枚
400×100×80%=3万2000字
400×400×80%=12万8000字
こちらは3万~12万字ですね。3万となるとだいぶ手が届きうる字数になってきましたが、その中で鮮烈な個性や訴えかけるものを書くというのも大変そうです。
<ライトノベル> 集英社ライトノベル新人賞
<応募規定>
34行×42字の用紙で50~200枚
こちらは400字詰め原稿用紙ではなく、フォーマットから決まっているようですね。
そもそも34×42って何文字なんでしょうか。400字換算に慣れているとピンときません。まずこちらを計算。
32×42=1428! おお、実は400字詰めよりかなり多いんですね。これを50~200枚に直すと…
1428×50×80%=57120字
1428×200×80%=22万8480字
およそ6万~23万字の範囲でしょうか。かなり振り幅が大きく、応募する側としてはありがたいですね!
23万字まで可ですので、壮大な設定や世界観を盛り込んだものでも入りきりそうです。

おまけ 調べてみて分かった細かな行数の違い

さて、本筋とは変わりますが今回地道に文字数を数えたりしていて気が付いたことがあります。

それは、予想以上に本によって細かく行数や1行あたりの字数が違うということ。ある程度の決まったパターンがあるかと予想していたのですが、結局6冊の中に同じ行数と字数のものは存在しませんでした。全部違うおかげで、何度も数え間違いがないか確認するハメに…。

もしかして出版社によって違うのか、と思って6冊を見直してみると全て違う出版社でした…。同じのがあれば比べやすかったのに。悔しいのでもう1冊追加!

上で挙げた「十角館の殺人」と同じ、講談社文庫さんから出されたもので比較してみました。

どんどん橋、落ちた/綾辻行人 399ページ×17行×41文字×80%=22万2482字

十角館の殺人/綾辻行人    446ページ×16行×40文字×80%=22万8352字

 

ジーザス!同じ作家さん、同じ出版社でありながら行数と字数の設定が異なりました

さらに注目して頂きたいのが文字数です。両作品の差はおよそ6000文字。ページ数に直せばおよそ8、9ページぐらいの差のはず…なんですが、「どんどん橋、落ちた」の方が1ページ辺りの字数が多い設定である分、50ページ近い差となっていることが分かりました。

もちろん字数のカウントは概算なので、いくらかズレる可能性は十分ありますが。

結果、両本の見た目の厚さはこんなにも印象が違ったのです。



…って、写真で余計分かりにくかったらごめんなさい。実際手に取ると結構印象は違います。どんどん橋、落ちたは一般的な文庫本サイズですが、十角館の殺人は少し厚めに感じます。

補足しておくと、両本にはあとがきや解説がついています。十角館の殺人は新装改訂版ということもあって40ページに渡る解説などがついており、どんどん橋、落ちたは20ページほどなのでその差も大きいとは思います。

 

文字数や行数の細かな違いから感じる意図

ここからは完全に想像になりますが、これらの細かな違いがあるからにはきっと理由があるのだと思います。

十角館の殺人に関しては、作品の肝となる有名な一行があります。あの特別な一行が、この新装改訂版からページを開いた行頭にくるように調節されています。なるほど、読んだ人の衝撃がさらに大きくなる工夫がなされているわけですね。

また、どんどん橋、落ちたは同じ綾辻さんのミステリーですが短編集であり、コミカルな作品も盛り込まれた作品になっています。ザ・本格ミステリーと言われる十角館の殺人よりもライトな印象を与えるよう、厚くなりすぎないための工夫だったりもするのかもしれません。

今回挙げた他の作品で目を引いたのは、「アルジャーノンに花束を」が1ページあたり15行とゆったり目の配分になっていることです。他の作品が16~18行のものばかりだったので、見比べてみるとそもそも字が少し大きめであることが分かりました。

これは、世界的名著が大人も子どもも読みやすいようにされた配慮かもしれませんね。また、関係ないかもしれませんが、このお話の序盤は幼児の知能しかない主人公、チャーリィの視点で書かれておりひらがながとても多いです。

だんだんとチャーリィの知能に変化が出てくるなかで漢字も少しずつ増えていきます。チャーリィが体感している世界の変化を見事に言語化した手法ですが、正直最初は読みづらさも感じます。

もしかしたら、こうした少し読みにくい場面でも内容が捉えやすいよう、見やすさを重視したレイアウトなのかもしれないと思いました。もう、完全に妄想の域ですけどね…。

 

まとめ

  • 小説の字数について、実際にカウントして検証してみました!
  • 始めから商業目的で作られ出版されている本は20万字を超えるものが多いようです。
  • 新人賞公募の場合、マックスでももう少し少ない上限となることが多いと思われます。一般小説の長編であれば10万字を超えたあたりが多いでしょうか。以前のメフィスト賞は字数制限がありませんでしたが、現在は上限ありになりましたね。
  • 本のレイアウトに隠された意図を想像してみるのも面白いかも。
 

小説を一冊書くにはどれぐらいの時間が必要なのか? の検証はまた別記事に続きます!