前回に引き続き、魂をこめて書いた作品で報酬を得る方法を考えたいと思います。PART②の今回は自費出版編。今回は電子書籍化の自費出版は省き、紙媒体での話に焦点を当てます。
始めに触れておきたいのですが、自費出版と似た言葉に共同出版という言葉があります。すごくざっくり言うと、出版社があなたの作品を出版するために少しお金も出しますよ、その代わり権利は出版社のものになりますよ。といった場合が多いでしょうか。
ただ、定義があいまいなので結局は自費出版と変わらないということも多いようです。それぞれの出版社や契約内容を比較して選ぶ必要があるということですね。
そして、下でも触れますが過去に共同出版はいろいろと問題点が指摘されることも多くありました。このため、現在は共同出版という言葉や形式はあまり使われず自費出版というスタイルが主流となっています。
なかには共同出版的自費出版という言葉を使っている会社も見かけました。こうなってくるとワケガワカリマセン。
この記事では便宜上、共同出版も含めて自費出版と表記します。もし出版を検討したいという方は、必ず各出版社のホームページで契約条件などを確認してください。
※ どの方法でもそうですが、プロデビューをしているわけでもない人の作品を買ってもらうというのは並大抵のことではありません。やみくもに本を出してみるだけでは出版時のコストを回収できず、収入どころか赤字になってしまう可能性が高いでしょう。費用をかけて出すものに関しては、最悪1冊も売れなくてもこの額なら出せると思えるラインで予算を考えるのが良いと思います。
目次
このシリーズの見どころ
書く人- いきなり新人賞をとって出版! というのは壁が高く気持ちも切れてきそうです。もって身近で、作品を人に読んでもらえるチャンスについて考えてみたいと思います。
- 今回の他に、同人誌製本編、電子書籍化・投稿サイト編などを予定しています。
- 今回は自費出版からシンデレラストーリーをかけ上がった山田悠介さんのお話も紹介。出版までの経緯だけでなく、自費出版から売れるまでの道筋もユニークなんです。
自費出版ってどうやるの?
まずは自費出版の方法から見ていきましょう。実は、自費出版に辿り着くまではそれほど難解な仕組みではありません。少なくとも、同人誌を作って自分で販売ルートを考えるよりはよほど道が敷かれているでしょう。なぜなら多くの場合、担当者がついて出版までをサポートしてくれるから。
自費出版に関して、出版社はその本が売れることは期待していません。有名作家さんの本でさえ売るのが大変なこの出版不況において、アマチュアの本が大々的な宣伝もなく売れることなどそうそうありえない、という理屈は誰でも想像しやすいのではないでしょうか。
にも関わらず、自費出版を行っている会社は少し検索するだけでもいくらでも出てきます。
「自費出版の無料見積もりはこちら!」と広告をたくさん見かけるほどです。
これはつまり、出版社は出版をする際に著者から受け取る手数料で利益を得ているという図式を示す現象なのです。
出版社さんもボランティアでやっている訳ではないので、どこかで利益を確保しないといけませんからね。
ですから、出版社にとって自費出版を希望する人というのは大事なお客様です。多少のことでは挫けないよう、なんとかして出版まで導こうとサポートしてくれます(もちろん出版社にもよると思いますが)。
見積もりや出版の相談、資料請求は無料で受け付けてもらえるところがほとんどです。一度相談してしまえば、あとは著者側の意向とお金さえあれば、出版への道は遠くないでしょう。
気になる費用、出版社による違い
費用についてですが、いきなり結論を言います。出版社やプランにもよりますが…基本的に100万円オーバー!(文芸書を書店に流通させる場合)
基本的に、ですからね。上を見れば200万、300万と上がっていきます。これはその出版社のブランド力や流通規模、出版社によってはオプションプランの有無などによって変わってきます。
例えば新潮社さんは200ページの本を300部流通させるためには185万円かかる見積もりとなっています。これは自費出版をメインに扱っている出版社と比べると少し高めの設定ですが…そこは新潮社のブランド力。高いお金を払ってでも新潮社から本を出したい! という気持ちは分かる気がします。
表紙に新潮社ってロゴが入り、ホームページにも載るわけですからね。新潮社から出版…かっこいいやん。
反面、こちらは自費出版をメインに扱っている(というか専門?)お手軽出版ドットコムさんでは、ブランド力では負けるかもしれませんが価格やオプションなど、かなり著者の希望に合わせた柔軟なプランが用意されています。ちなみに出版時はブイツーソリューションさんからの出版物とうことになるようです。
書店訪問営業の有無や、Amazon広告、マスコミ・著名人への献本まで選べるとは…オプションを見ているだけでも興味深かったです。
この2つ以外にも、検索するだけで自費出版を扱っている会社はたくさん出てきます。もしお世話になるのであれば、自分の希望としっかりあったところを選びたいものですね。
自費出版のメリット(同人誌との比較)
前回の記事でいくと、同人誌は安いもので1万円台から作れるのに…自費出版の価格の高さときたら! これは、相応のメリットがなければ選べませんね。どういう点がメリットになるのか、考えてみましょう。※ いずれも、出版社やプランによって変わってきたり、別料金がかかることがあります
- 担当者がついて出版までサポートしてくれる
- 執筆代行を依頼できる
- 表紙のデザインや本文のレイアウト、帯など細かいところまでこだわることができる
- 書店に流通させることができる
- プロの方に編集・アドバイスをしてもらえる
また、執筆代行というのも面白いサービスですね。アイディアはあるんだけどうまく文章にできない、あるいは書く時間がない、という方のために、ライターさんが代わりに書いて下さるそうです。
お願いできる出版社とそうでないところがありますが、ニーズがある方は検討してみるのもいいかもしれません。ただ、もちろんそれなりの金額が発生しますが…
お手軽出版ドットコムさんでは、200ページの作品を打ち合わせ3回で書いてもらう場合、約60万円という見積もりになりました。もちろん基本料金とは別に払うわけで、トータルではかなりの金額となりそうです。
本が売れたお金は全て自分のもの?
自費出版となると高額な費用がかかるということが分かったわけですが…もしかして自費出版、ということは本が売れた際の収益、印税に相当するものは全て自分のものになるのでしょうか?答えはノーです。これも出版社などによりますが、およそ売れた金額の5~6割程度が著者のもとへ入ることが多いようです。
まず、販売してくれた本屋さんの収益が必要です。よく考えてみればこれは当然とも言えそうですね。これがおよそ30%。
次に、出版を手掛けてくれた出版社にも手数料が10%強とられることがあります。これは出版社にもよりそうですし、明記されていないところもあります。
流通などの手数料だそうですが…それも含めて最初にお金を払っての自費出版じゃないのか、という気がして管理人は少し腑に落ちません。もっとも、きちんと担当の方から説明を聞いたりしたわけではありませんので…話次第では納得のいくものなのかもしれませんが。
と、いうわけで。本屋さんに30%、出版社に10%程度が行き渡って残る、50~60%が著者の収入となるようです。
※ 細かいことですが、印税とは出版社が著作権使用料として著者に払うものです。このため、自費出版では著作権は出版社ではなく著者にあることが一般的ですので印税とは呼びません。
自費出版から大ヒットした作家さん
実際のところ、自費出版から売れるということは可能なのでしょうか。自費出版の各会社のサイトを見ると、なかなか厳しい答えが書いてありました。「よくて数百部」「思い通りに売れないことが多い」といった記載が並びます。正直に書いて下さっているのは良心的とも言えますが。厳しい現実ですね。
では自費出版から売れた作家はゼロなのかというと…そんなことはありません。非常に数少ないですが、何名かの方はベストセラーにもなっています。
一番有名なのは、山田悠介さんではないでしょうか。自費出版でありながらベストセラーとなったデビュー作は、リアル鬼ごっこ。なんと累計100万部売れたというのだから驚き。
今から15年以上前にかなり話題になったのでご存知の方、読んだ方も多いと思います。映画化もされましたね。
その後も今日までコンスタントに活躍を続けられています。というか、映画化作品が14本あるってヤバすぎですね。
山田悠介さんはどうやって売れたの?
ところでこの山田悠介さんのリアル鬼ごっこ、どうやって自費出版からここまでのビッグタイトルとなったのでしょうか。実は、その売れ方はなかなかユニーク。後にベストセラーとなるリアル鬼ごっこですが、発売当初の小説としての評価は散々でした。アラサー以上の方は覚えている方も多いかもしれませんが、特に指摘されたのはその文章です。
主語と述語が合っていない、言葉の意味をそもそも間違えている、二重表現だらけ…といった風に酷評されました。なにせ自費出版ですので、編集の手なども商業出版の本と比較するとあまり入っていなかったのではないでしょうか。
ところが面白いもので、その酷評ぶりが評判を呼びました。どれだけ酷いのか、一度読んでみるか。そんな人が続出したわけですね。気が付けばジワジワと売れていき、とうとう商業出版されることに(ちなみに幻冬舎文庫から出た商業出版版は大幅な改稿が入っているそうです)。
そして何より、文章はともかくストーリーやアイディアは面白いぞ、という反響が大きくなっていったのです。
あとは評判が評判を呼び、主に中高生を対象に大ヒット。100万部に至りました。さらにその一発屋で終わらずヒットを続けるのですから…事実は小説より奇なりといったところでしょうか。
結局のところ、自費出版で収入は得られるの? 新風舎騒動を知っておこう
最後に、自費出版といえばこのことに触れておくべきだと思いましたので挙げておきます。今から15年ほど前、やたらと共同出版という言葉が(一部で)流行った時期がありました。新聞を見れば必ずといっていいほど共同出版を勧める出版社の広告が並んでいたのを覚えています。
管理人は当時、初めて小説を書いている真っ只中でしたので…けっこう真剣にその広告を読んでいました。なにせ十代でしたから。夢見がちな年ごろのところに、『あなたの夢を叶えます!』という見出しが躍っているわけです。世間知らずも相まって、自費出版してみたら売れるんじゃないか…なんて考えてしまったものです。
ところが、そんな共同出版のプチブームは急速に冷え込みました。原因は、当時共同出版の最大手と言ってもよかった新風舎という会社が経営破綻をしたうえに、もろもろのトラブルをぶち上げたからです。
当時のバッシングの空気を振り返るために、こちらの記事を読んで頂くとよいかもしれません。
要するに、アマチュア作家を言葉巧みに誘い、不当に高額、且つ著者に不利な契約内容で共同出版を持ちかけているというのが主に疑惑とされた点でした。

あなたには才能があります。ぜひ当社と一緒に出版をしましょう

この作品は特別です。きっと売れます。出版しないのはもったいないですよ
と。実際には、相談などの機会があった全てのアマチュア作家に同じようなことを言っているわけです。
新風舎のような極端な例は今は無いと思いますが、著者が自費出版の時に支払う料金でその会社の方々はご飯を食べています。上でもあげましたが、自費出版は出版社からすればそれ自体がビジネスです。自費出版の本が売れるとは考えていないのです。
ここからは管理人の個人的な意見ですが、自費出版は利益をあげようと思ってやるのは現実的ではありません。
この記事のタイトルと矛盾するじゃん、という声が聞こえてきそうですが一応利益が出る可能性が0%ではないということで紹介させて頂きました。事実、山田悠介さん以外にも自費出版からヒットした作品はありますので。ただ、やはり利益を見込んで行うにはリスクが大きいでしょう。
例えば個人の自伝を思い出として作りたい、自分が書いた作品を記念として本にしたい。そんな思いからであれば自費出版は夢を形にできる素敵なシステムだと思います。この場合は書店に流通しませんので、上であげた例よりもコストも安く済む可能性が高いです。
あるいはかなりお金に余裕のある方で、100万、200万ぐらい痛くないやと思える方にも合う方法と言えるでしょう。
そうでない方で、本気で作家として利益をあげるために自費出版をしようというのなら…くれぐれも熟考に熟考を重ねることをオススメします。一人で決めず、最低限、家族・友人にもきちんと相談しましょう。それでも揺らがない時、出版費用は捨てる覚悟で最終的な決断をして下さい。
まとめ
- 自費出版はハイリスク・ローリターン。利益目的でどうしてもやってみるという場合は、出版費用がまるまる無くなってもよい覚悟で行いましょう。
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