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いろんな作家さんの描写から学ぼう ~人物の服装・髪型・外見編~

小説を書くときに、登場人物の外見の描写って悩みませんか?

どの程度まで細かく書いたらいいのか…ファッションの用語にあまり詳しくないし…。顔や髪型だって、イメージを細部まで伝えるにはどうしたらいいんだろう?

というわけで今回のテーマは、意外と難しいかもしれない『登場人物の外見の描写』についてです!

 

この記事の見どころ

書く人
  • 各作家さんの外見描写を比べてみたところ、学びたい点がたくさん見つかりました。一般、ライトノベル問わず、物書きさんは参考になるところがあるかも。
  • キャラクター小説を書かれる方には、一番下で登場する平山夢明さんのダイナーの描写は特に必見かも。
  • ファッションを調べて検索したり写真を見たり悶々としていた方、それも大事ですが他に大切なことがあるかもしれません。
 

読む人
  • サンプル数が少なくて恐縮ですが、有名作家さんたちの本から外見描写を抜粋してみました。今後、本を読むときにそれぞれの描写の違いに注目してみるのも面白いかもしれません。
 

作家さんを手本にしてみると何かわかってくるかも

では考えてみましょう…といっても、このブログに小説の書き方について講釈を述べられる立場の人はおりません。管理人はただのイチ素人ですからね。

ですが、作家さんのお手本を集めることならできます。ここはひとつ、いろいろな作家さんの人物描写を見比べてみようと思ったわけです。

秀逸な描写をピックアップするというより、幅広く参照するためできるだけ無作為に選んでみました。

先に断っておくと、人物の描写は1シーンだけで完結するというものでもないと思います。

試みとして抜き出してみましたが、一つの物語の中で蓄積されていくイメージを通して描写と呼ぶべきであり、少し無粋な取り組みかもしれません。ぜひご自分のお気に入りの本を通して、描写を見直してみるきっかけになると幸いです。

 

いろんな作家さんの描写を見てみよう(主人公/一人称編)

身長百六十五センチ、小柄の醜男なので、女性にもてたためしがない。
折原一/倒錯のロンド

 

え、この1本だけ? そうなんです。今回、一人称主人公の本を7冊ほど調べてみましたが、地の文で描写がされているものはこれだけだったのです。

よく、一人称視点の作品で書く場合の難しさとして、主人公の外見が描写しづらいということが挙げられますが、こうしてみると描写なしでも結構成り立つのかも。

というより、一人称の場合キャラクターを描写することのメリットが薄いのかもしれないですね。物語を見渡す目の役割を持つ主人公は、イメージが薄いぐらいの方が読み手も世界に入りやすいのかもしれません。

 

いろんな作家さんの描写を見てみよう(主人公/三人称編)

あらためて、自分が着こんでいる服を見下ろす。背広の上下に、ネクタイ。下に着けているワイシャツも長袖だ。
貴志祐介/クリムゾンの迷宮
黒いセミロングの髪に、大きな瞳。肌は白く、練習着から伸びる腕も細めで、どこからどう見ても文学少女風の見た目だが、これで卓球一筋の体育会系というのだからあきれてしまう。
青崎有吾/体育館の殺人

 

さて、なんと三人称部門も2作品しか描写がありませんでした。しかも、体育館の殺人に関しては三人称多元視点であり、他の登場人物に視点が移って初めて主人公の外見描写となりました。

キャラクターの濃い主人公は別として、事件や物語に巻き込まれがちな個性薄めの主人公の場合、外見描写は必須でもないのかもしれません。

ちなみに体育館の殺人に関しては、シャーロックホームズにおけるワトソンくん的な立ち回りの主人公になります。このため、探偵役の裏染天馬はまた違ったインパクトのある描写となっていました。これについては後のインパクト編でご紹介します。

 

いろんな作家さんの描写を見てみよう(男性キャラ編)

定規のようににまっすぐ背筋を伸ばした男がこちら睥睨する。細い瞳がリムレス眼鏡の奥でかかってこいといわんばかりに光っている。上背があるぶんその威圧感はひとしおだ。
今村昌弘/屍人荘の殺人

 
白いTシャツを着た長身の男が入ってくるのが目に入った。親友の城戸明である。少し長めの髪が肩にかかっている。
折原一/倒錯のロンド

 
エラリイは云った。ひょろりと背の高い、色白の好青年である。
綾辻行人/十角館の殺人

 

こちらは主人公以外の男性人物編。サンプル数が少ないということもありますが、割合とシンプルな描写の作品が多かったです。もちろんもっと凝った描写の作品もたくさんあるわけですが。特に印象的だったものは下のインパクト編でご紹介。

ひとまずこれを見て思うのは…外見の直接的な描写以外でキャラクターのイメージを印象づけることに成功している作品も多い、ということでしょうか。

例えば十角館の殺人のエラリイであれば、外見はたったこれだけの描写なんですが管理人の脳内には間違いなくスラっとしたイケメンのエラリイがいます。これは、エラリイの所作や言動の積み重ねから浮かび上がっているものではないでしょうか。

十角館の殺人と言えば本格ミステリー小説の代名詞的作品ですが、キャラクター造形のうえでも参考になることがたくさんあると感じました。

 

いろんな作家さんの描写を見てみよう(女性キャラ編)

相手は、長身でスリムな女だとわかった。長袖のシャツにジーンズ姿。髪はショートカットだが、腰の辺りの丸みは、明らかに女性のものだとわかる。(中略)顔の造りは、ごく普通の日本人に見える。目鼻立ちは整っている方だったが、どこか、目つきに奇妙なところがあった

(その後のシーン)

夜目遠目笠のうちと言うが、こうして朝の光の中であらためて見ても、彼女は個性的な顔立ちの美人だった。どことなく両目の焦点がずれて見えることさえ、眼差しが鋭くなりすぎるのを妨げ、女性的な魅力を醸し出すのに一役買っていた。
貴志祐介/クリムゾンの迷宮

 
相当な美少女――少女かどうかは微妙だが――である。黒のブラウスとスカートに身を包み、肩よりも少し長い髪も黒。身長は百五十センチと少しといったところだが、スカートの腰の位置が高いためすらりとして見える。風貌は可愛いというよりも、そう、佳麗というのが正しい。少女と女性という分類のちょうど境目にいるような、とにかくそこいらの女子大生とはまるで違う生き物に思えた。
今村昌弘/屍人荘の殺人

 
その女がぼく好みの健康的な美人だったので、よけいに腹が立った。
折原一/倒錯のロンド

 
彼女はその名前の通り、色が透き通るように白かった。少し赤みを帯びた、ふわっとした髪が外光を受けて輝いている。見ようによっては、踊り場にあった青い眼のセルロイド人形がそのまま成長したように見える。年齢は二十を少し超えたところか。島崎は思いがけない美女の出現に大いに困惑した。
折原一/異人たちの館

 
小柄な女性である。太めの体格を気にしてか、暗い色調の服ばかり着るので、かえってそれが野暮ったく見える。
綾辻行人/十角館の殺人

 

なんか、男性キャラ編よりも途端に饒舌になった気が! ヒロイン格のキャラクターの描写が中心なので当然かもしれませんが、かなり力説系の描写が多いですね。

これが恋愛モノや官能小説になってくるとよりきめ細かな表現が必要となってくるでしょう。

また、女性向け作品であれば反対に男性キャラクターの描写の深堀りが重要と予想されます。残念ながら、手元にそうした作品が無いので確認できませんでしたが…。

ちなみに十角館の殺人ではオルツィという登場人物を描写したものですが、外見と一緒に性格まで見えてきそうな一文ですね。ミステリーなどでよくある、一つの舞台に何人もの登場人物が出てくる作品では、読者にいかに早く登場人物の印象付けを行うか、ということも大切と感じました。

しかし、倒錯のロンドの描写はなんだか清々しいですね。同じ折原一さんの作品でも、異人たちの館とも大きく違い、こうして並べてみると熱さの違いに笑ってしまいそうになります。この違いについては後で触れてみます。

 

いろんな作家さんの描写を見てみよう(インパクト編)

真っ黒な瞳と目が合った。すっとした端整な顔立ちの少年だ。長く伸びた前髪と、やる気のなさそうな二重まぶたが少々ネックになっていたが、肌は幽霊のように白く、第二ボタンまで外されたシャツからは、鎖骨のラインが覗いて見えた。
青崎有吾/体育館の殺人

 
見た目は実際の年齢よりもやつれていた。単に老けているだけではなく、身体の隅々にまできちんと養分が行き渡っていない印象を与えた。ひどい猫背のために160センチほどしかない身長はますます小さく見え、骨張った首筋には皺の間に垢がたまり、ぱさついて好き勝手な方向に跳ねる白髪が、せっかくの福耳を半分に覆い隠していた。(中略)彼はこの世に背広以外の洋服があるのを知らなかったのかもしれない。他人がどんな装いをしているかなど興味はなく、まして自分の見かけにこだわって無駄な時間を消費するなど考えられなかっただろう。
小川洋子/博士の愛した数式

 
犬だ、と真っ先に思った。顔がふてくされた犬に似ていたのだ。髪を無造作に伸ばしている。背格好は僕と同じ程度だった。たぶん、年も同じくらいに違いない。(中略)彼は、喋るとますますゴールデンレトリーバーに似ている。良くみれば、整った顔立ちなのかもしれない。
伊坂幸太郎/オーデュボンの祈り

 
長い指。広い甲。貝殻のように形のよい爪には透明のマニキュアが施してあった。指はメニューには興味がないかのように、のっそり動き、互いに絡み合った。時と場所が違えば優雅な仕草に感じるかもしれなかったが、なぜか、わたしは背筋がぞっとした。死にかけの蜘蛛が足を閉じるように感じたから。それにその皮膚。紅茶で煮染めた古包帯のようなそれは至るところで縮んで、伸びて、溶けて、縫い詰められ、まるで人の皮で作った道路地図みたい。そんな手の人を見たのは初めてだった。男は鍔のあるキャップを取り、風邪用のマスクを外した。すると頬や顎、耳とか鼻の辺りに酷い引き攣れや罅のような切り傷や引っ掻き傷が、新しいものも古いものも同窓会みたいに残っていて、首からサマーセーターの中へと続いていた。まるでナッツ入りのヌガー・バー。
平山夢明/DINER(ダイナー)

 

こちらは管理人が読んでいて、その人物のイメージが印象に残りやすかった描写たち。

大まかなイメージから入ったり、反対に、時に細部に注目することでよりそれぞれの個性を浮かび上がらせていると感じました。

管理人が個人的に好きなのは3つ目の、伊坂幸太郎さんのオーデュボンの祈りの日々野という登場人物の描写です。

恥ずかしながら管理人、ゴールデンレトリバーみたいな人の顔がさっぱり思い浮かびませんでした。今回検証するにあたって、ナンセンスと思いながらもゴールデンレトリバーみたいな人、で画像検索してみましたがやっぱりピンと来ず。

ですがですが、本を読んでいて日々野のイメージはちゃんと浮かぶんです。むしろ、どの人物よりも想像しやすいというか。髪を無造作に伸ばしている、とありますが、肩までなのか背中までなのか、何色なのか、書いているわけではないのに。

詳細に書き込んでいるわけではなくとも、その人物を思い浮かべるときに不思議とマッチする感じがよいのではないしょうか。

その後の展開の中で、日々野を表現するときに犬の仕草を使った比喩が出てくるのですが、これがまた説得力があって。外見の描写でありながら、うまく使うことで内面も掘り下げられるよい例だと感じました。

また、平山夢明さんの描写は圧巻ではないでしょうか。ダイナーという次々に個性的な殺し屋が登場する作品ですが、一人一人のキャラクターの描写が鮮烈です。作品としても管理人は大のお気に入り。残酷描写に拒否感がない方にはぜひ、読み物としても教科書としても読んで頂きたい作品です。作品レビューはまたいずれの機会にします。

 

比べてみて分かったこと

それぞれの雑感は上で挙げましたが、そのほかで思ったこととしては…外見の描写が無いに等しい作品も意外とあるということ。そして、違和感もなく読み終わっているということでした。

これは、ジャンルや登場人物の立ち位置、個性の強さなどによっても当然変わってくる…というか、そこが大きいと思います。

同じ折原一さんの作品でも、倒錯のロンドのように淡々とした描写で進めるものもあれば、異人たちの館のように、ヒロインの美しさを鮮明に引き立てる描写も見られました。

倒錯のロンドは主人公とある人物との駆け引きが主眼に置かれた作品です。対して異人たちの館は、同じくミステリーではありますが、それぞれの登場人物の思惑や過去が複雑に交じり合う人間ドラマが大きな魅力の1つとなっています。

登場人物を描写する目的によって表現の仕方も変わってくるという好例かもしれません。

また、詳細に書くことが正しいとも限らないと感じました。服の色や髪型、靴の種類まで細部に書き連ねることが大事な場合もありますが、そうでなくてもしっかりイメージが描ける人物も多かったです。

管理人は自分が執筆している時、ファッション用語をググったり写真を調べてみたりと悶々とすることもありますが…もっとほかの方法で描写する手も一案なのかもしれません。

 

分かったことのまとめ

  • 外見の描写は、ジャンルやその物語によって表現や量を変えることが有効とみられる。
  • 外見と性格や過去をリンクさせることで、よりその登場人物に説得力をもたせることができる。
  • 詳細に描写することが正解とは限らない。
  • キャラクター造形は、外見だけでなく所作や行動を伴うことで深まっていく。