4分間というわずかな時間ながら、実は序破急の要素がしっかり盛り込まれているということが分かり、小説を書く上でも参考にしたいものだと思いました。
こうなってくると気になるのは、起承転結はどういう展開を指すのか? です。
分かりやすくミルクボーイと対比させるために、同じM-1の2019ファイナリストの漫才のなかから考えたとき…和牛の漫才は起承転結といえるのではないか!と考えました。
というわけで今回は、和牛の漫才から起承転結を学び、序破急との違いも見ていきたいと思います。
今回の記事の見どころ
書く人- 今回のテーマは起承転結! たった4分の漫才を2つ見るだけで、序破急と起承転結について考えが深まります。
- 起承転結と一口にいっても、それぞれのパートで書き手が注目すべき点がそれぞれ分かりました。これらを念頭に置きながら書くことで、メリハリのある物語が生まれると考えられます。
- 小説でも映画でも漫才でも、物語を構成する要素には共通点があります。起承転結について知ることで、オーソドックスの楽しみ方や、定石を外した物語の楽しみ方が広がるかもしれません。
サラッと紹介 起承転結とは
起承転結とは、小説に限らず映画の脚本やお芝居、さらには作文などにもおける文章構成の一形を指します。よく似た言葉に序破急というものがありますが、ざっくりいってしまうと起承転結は4段構成、序破急は3段構成という違いがあります。
解釈はさまざまですが、起・承・転・結の四文字それぞれが以下のような役割をもつとされます。
起 物語の起こり。登場人物や舞台背景の描出。主役が誰で、何をする物語なのかの説明。
承 物語の発展。大きな展開の前振り。登場人物やエピソードの肉付け。
転 物語の大きな展開、逆転。一番の見せ場。
結 物語の締めくくり。テーマに対する答え。
序破急とは違い、それぞれのパートの時間的配分については資料が見つかりませんでした。ただ、イメージとしては承が一番大きくなることが多いと思います。
多くの物語を人に説明するときや本の帯についているあらすじなど、承の部分からとることが多いです。承で大きく話を膨らませ、終盤に転・結と畳み込むような作品が多いのではないでしょうか。
ただ、こうすべきという答えがあるものではありません。作品によって適した展開の仕方というのは変わって当然ですので、あまり配分のボリュームを意識する必要はないでしょう。
和牛の漫才ネタ「引っ越し」の概要
和牛がM-1グランプリ2019で行ったのは引っ越しのネタです。準決勝で敗れた和牛でしたが、このネタで敗者復活戦を勝ち上がり、決勝戦でも10組中4位に入りました。
設定は漫才としてはオーソドックスといえ、引っ越しのときの物件選びは難しい、というテーマのもと始まります。
特徴的なのは、前半と後半で大きな逆転が起こるということが挙げられます。
前回取り上げたミルクボーイのネタについては文字で書き起こしたサイトが見つかりましたが、和牛の引っ越しネタに関してはまだ大会直後ということもあって書き起こしたものは見つかりませんでした。
未見の方は、実際に映像で見て頂くのが一番いいと思います。4分強で見れますし、なんといっても面白いですので。
「引っ越し」の起
起 物語の起こり。登場人物や舞台背景の描出。主役が誰で、何をする物語なのかの説明。
和牛のこのネタでいくと、開始から30秒程度にあたります。4分半のネタですので、配分としては1/9ほどでしょうか。「引っ越しの下見についての漫才をする」という舞台設定をできるだけ短い時間で提示し、承に移ったことが分かります。特筆すべきは、この短い時間の中にも笑いどころが入っているということです。
ミルクボーイは本題に入る前につかみのボケを入れる方法をとりましたが、和牛は、本題の説明自体と見せかけてすでに登場人物になりきっているというボケから入りました。
全く寄り道せずに本題へ突入し、且つ面白いという導入です。小説を書く際でも、初期の舞台背景や登場人物造形はできるだけテンポよく入り、その上で魅力的なシーンがあることが理想と考えられます。
書き出しはまだ提示できる材料が少ないため書きづらいところでもありますが、だからこそ工夫を入れ読者を惹きつけることが大切だということが分かります。
「引っ越し」の承
承 物語の発展。大きな展開の前振り。登場人物やエピソードの肉付け。
続いて承に移ります。このネタでは2分半ほどを使っており、ボリュームとしては4つの区分けの中で一番大きいものになりました。これは物語でも同様であり、よほど変わった構成でない限り承の部分が一番の量を占めます。
和牛とミルクボーイのネタの構造の違い、言い換えれば起承転結と序破急の違いは、この部分で大きく別れていきます。
ミルクボーイは序のあとの破の段で一気に盛り上がり、終始大きな笑いを起こしながら終わりへと向かっていきました。
対して和牛の承は、そのあとに控える転での盛り上がりを作るための前振りで構成されています。
起で始まった引っ越しの物件選びというテーマを、紹介された物件すべてに人が住んでいるという方向性に膨らませていきます。
ただし、前振りといっても承の段階で飽きさせないよう、この間も笑いどころが盛り込まれた構成となっています。
小説においても、承はクライマックスの前振りとなる場合が多いところですが、この段階で面白くないと思われてしまうと転まで読んでもらえない可能性が高くなります。
あるいは、転がせっかく面白くとも、全体の多くを構成する承がイマイチだったため、小説全体の印象もイマイチとなりかねません。
前振りや肉付けを取り入れながらも、魅力的な展開、飽きさせない工夫が必要になってくることが分かります。
「引っ越し」の転
転 物語の大きな展開、逆転。一番の見せ場。
さて、溜めた伏線を一気に爆発させる段階に入ってきました。和牛漫才では1分半ほどを使っています。転という名前の通り、物語に大きな逆転や意外性のある展開が生まれると、盛り上がりはより大きなものとなります。
引っ越しのネタでは、承で膨らませた、紹介された物件にすべて人が住んでいるという膨らませた展開を逆手にとり、ツッコミ役の価値観がズレた状態で漫才が展開します。
オバケがいたり電気が通っていない、通常ならツッコミが入るべき場面を人が住んでいないという理由で喜ぶという、意外性が生まれました。
承の伏線があったからこそ通常では起こりえない展開が成り立ち、大きな笑いと盛り上がりを作ることとなったのです。
小説でも、承までで培った下地を転で爆発させることで、魅力的な物語となることが分かります。
「引っ越し」の結
結 物語の締めくくり。テーマに対する答え。
最後に結です。和牛の漫才では、転のピークのまま一気に締めくくりの挨拶まで入ったため、結と呼べる部分は大オチの数秒程度といえます。「引っ越しの物件探しは難しい」というテーマに対して答えを出したものではありませんが、これは漫才では珍しくないといえます。そもそも答えを求めて漫才を見るということは少ないからです。
ただ、ミルクボーイは「オカンが忘れた朝ごはんは何か?」という問いに対して最後に答えを出し、大きな盛り上がりを作りました。
たとえ漫才であっても、導入の大きな振りが最後に効いてくるとカタルシスにつながります。
小説であればなおのこと、結で出す答えが読後感に大きな影響を与えるということが分かります。
もう一点、この結から学べることとしては、予定調和というものの大切さがあります。
「誰が住むか。もうええわ」
これは引っ越しネタの最後のセリフです。考えてみれば、他のどのコンビの漫才もほとんどがツッコミ→もうええわ、などの展開で終わるのではないでしょうか。
仮に、この締めくくりがなかったら…なんだかモヤモヤすると思いませんか? 予想外の展開を求めながらも、やはり予定調和というものは安心感があり、愛されます。
漫才は最後はツッコミが入り、演者が一礼して終わる、と客側は予定調和を期待しています。ここを予定調和外のものにするというのは、客側の期待を上回るものがなければ、見た後の印象を損なうことにつながります。
小説でも、途中で奇抜な物語や展開があったとしても、結末はある程度のところに落ち着く方が、読者は安心して受け入れられ、良い読後感を得られやすくなります。
ただし、あえて予定調和を壊すという手法もあります。
漫才でいえば、天竺鼠というコンビはこのM-1の敗者復活戦で斬新な終わり方を見せました。
ボケ役が「俺もう今日ひと通りボケ終わったから、先に上がらしてもらうわ。お前もええとこで上がりや」と言い残し、ツッコミ役を置いて舞台から先に去っていきます。
これは予定調和を壊しつつ、観客の期待値も上回ったため大きな笑いが起こった成功例といえます。
小説でも、予想を裏切り且つ読者の期待を上回るものであれば、予定調和を壊す突飛なアイディアがプラスになる可能性が考えられます。
まとめ
- 起承転結と序破急の大きな違いとして、承が転の前振りとしての役目をもつことが挙げられる。
- 起ではできるだけテンポよく、且つ序盤から惹きつけるシーンを作る
- 承では転につながるよう物語を膨らませつつ、飽きさせない工夫を入れる
- 転では読者の予想を裏切るような大きな展開を入れる
- 結では予定調和も大切。ただし、読者の期待を上回るものであれば予定調和を壊すことがプラスになりえることがある。