実は、ここのところ小説の読了ペースがすっかり落ちてしまっているのですが…
仕事などでの疲れからくるものかなと思いきや、単にコインロッカー・ベイビーズが読み進められなかっただけと気づいたのです。
「つまんねー」とは思っていないのに、なんだか本書に手が伸びない…
ところが、試しに他の作品に手を出すと以前のようにスラスラ読めました。
コインロッカー・ベイビーズといえば、現代文学の傑作としてその後の数多の作品に影響を与えた一作。
小説だけでなく、映画やゲーム、アニメなど様々な作品でオマージュされているほど。
にも関わらずなぜ管理人はコインロッカー・ベイビーズが読み進められないのか…
ネットで検索しても本作へのネガティブな意見というのはほとんど見られなかったので、管理人としては少し勇気もいりましたが、個人的に挫折しかけている原因と思われる部分を取り上げてみたいと思います。
目次
コインロッカー・ベイビーズとは
今さら説明するのも恐れ多いような作品ですが、発売から40年が経過した現在。本作を知らない、なじみが薄いという方もおられると思いますのでまずは簡単に本作の概要をご紹介。
コインロッカー・ベイビーズは1980年、村上龍さんが28歳のときに書かれ第3回野間文芸新人賞を受賞した作品です。
10代20代の方にとっては、カンブリア宮殿で鋭い目をしているオジサンぐらいの認識かもしれませんが…
本来の姿は数多のセンセーショナルな作品を生み出した文豪というわけです(多才な方なので、文豪というひとつの枠にすら収まるべきですらないのかもしれませんが)
限りなく透明に近いブルー、ラブ&ポップ、オーディションなど映像化された作品も数多く、また2003年には『13歳のハローワーク』で中学生からの職業選択についてポップに描き話題となりました。
13歳のハローワークは大学の図書館で読んだなあ…あと6年早く読みたかったと思った19の夏
そんな村上龍さんの数ある作品の中でも、もっともインパクトが強いとされ、後世に語り継ぐべき作品として必ず挙げられるのが本作、コインロッカー・ベイビーズというわけです。
40年も前の作品ですので、管理人も生まれていません。当初の反響は想像するしかないわけですが、数々の作品に影響を与えたのは間違いないようです。
事実、管理人自身も小説やゲーム、映画といったさまざまな物語の作り手の口から「コインロッカー・ベイビーズ」という言葉が出るのを耳にしました。
分かりやすいエピソードとしては、
ヴァル・キルマー、浅野忠信、リブ・タイラー、アーシア・アルジェントらの出演で映画化されることが決定、脚本にはジョン・レノンの息子であるジュリアン・レノンも参加するとされていたとWikipediaに記載されているほど。どんなメンツだ。残念ながら、実現には至っていないようですが…
2016年には舞台化されるなど、発売から30年を超えても人の記憶に強烈に残り続ける作品ということが伺えます。
読むきっかけはダイナー/平山夢明さんのあとがきから
昔から<殺しにかかってくる>話が大好きだった。それは殺人が起きたり、殺し屋が出るといった単純な意味ではなく、読者に対してグゥの音も出ないほど徹底的に小説世界に引き摺りこみ、窒息させるほど楽しませようとしてくる物語のことである。
小説でいえば『コインロッカー・ベイビーズ』『羊たちの沈黙』『家族八景』、映画なら『タクシー・ドライバー』『ゴッドファーザー』『エイリアン』『砂の器』『仁義なき戦い』等が思い浮かぶ。
これは管理人が大好きな作品、平山夢明さんの『ダイナー(DINER)』の、平山夢明さん自身が書いたあとがきの冒頭部分です。
独特の表現でこれらの作品を讃えているわけですが。
<殺しにかかってくる>すなわち、読者に対してグゥの音も出ないほど徹底的に小説世界に引き摺りこみ、窒息させるほど楽しませようとしてくる物語だとすれば、
管理人にとってDINERはまさに<殺しにかかってくる>作品だったわけです。
その作者の方が好んで名前を挙げる(しかも最初に!)ほどの作品とあっては…読まないわけにはいかないだろう!
というわけで、強い期待をもって本作を手に取った次第です。
なぜかおやすみプンプンを思い出した。好感触の読み始め
こうして大きな期待とともに管理人は本作コインロッカー・ベイビーズを読み始めました。そして、早々に打ちのめされました。
すげえ…圧倒的な情報量とテンポ。
とにかくひとつひとつの場面の描写が濃密。情景が洪水のように頭に注ぎ込まれるんです。
自分だったら、このクオリティで描き続けようと思ったら3行で一日かかってしまいそう…(そもそも書けないというツッコミは置いておいて)。
どの行を切り取っても揺さぶられる何かがあるんです。そのうえで、濃すぎる描写のままストーリーがどんどん進んでいく。
描写が濃密なのにハイテンポ。
矛盾してるやんと思われるかもしれませんが、それを両立するこの読感は本作ならではと言えます。
そして、村上龍さんの頭の中を覗いてみたくなるような、圧倒的な創造力からなされる世界観。
ディティールにとことんまでこだわった描写が、完全に世界をひとつ作り上げてしまっているんです。
こいつはすげえ…と、前評判に違わぬ引き込みっぷりを見せてくれた本作です。
これは余談ですが、管理人は本作を読んでいて、浅野いにおさんの漫画『おやすみプンプン』を読んだときの感触と似たものを思い出しました。
おやすみプンプンもかなり独特な世界観の漫画ですが、特にディテールのこだわりや、弾丸のようなセリフまわし、予定調和との対極のようなシビアなストーリーなどが連想させたのでしょうか。
もしかすると、コインロッカー・ベイビーズが好きで似た作品を探したい、という方は『おやすみプンプン』が合うかもしれません。
その逆もまたしかり。
こうした、メディアを超えた数珠繋ぎで読む作品を探してくのも面白いかなと思ったりします。
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胃もたれを起こし始めた中盤
この記事のタイトル「コインロッカー・ベイビーズを読むのがしんどい」なんですが、ここまでは釣り記事かよっていうぐらい絶賛で書いてきました。しかし管理人、絶賛をしつつも中盤から読むのが実際にしんどくなってきたんです…。
要因としては以下の2つがあるのかなと…
要因① 密度疲れ
ひとつ目はこれ。描写やディテールへのこだわりは上で書いたとおりで、この作品の優れたところと言っていいと思うのですが…
ずううううううううううううううっとこのテンションは身がもたない!頭がついていかない!
とにかく、各ページの余白がほとんどありません。セリフですら字の文の中に流れていくこともしばしばで、それが没入感を生み出しているといえるんですが…
割とぬるめの読者な管理人には、途中からキツくなってしまいました。
箸休め的なシーンはなく(あったらあったで世界観ぶち壊しだと思いますが)、シリアスな話が続きます。
この記事のタイトルにある「つまらない」というのは、ネット上で見つけたコインロッカー・ベイビーズへの批判的な記事に書かれていたものですが、人によってはそう感じてしまう可能性は確かにあるかもと思いました。
分かりやすい起承転結や盛り上げが用意されている感じではないですからね。
別について来れないやつは来なくていい、ぐらいの気概で世界が進みます。
読者に合わせて作品が進むのではなく、気が付けば読者が引き摺りこまれているような作品ではないかと思いました。
大衆に選ばれるように調節された作品ではないからこそ、唯一無二といっていい世界観が作られているのではないかと。
かくして、管理人は『ついて行けない』方に入ってしまったようで。
中盤で脱落して、『ついて行ける人』に羨望のまなざしを送るような形となっているわけです。
要因② 反予定調和疲れ
もう一つの要因はこちら。本作は、実に自在にストーリーが展開します。
まず、三人称の神視点というのが最近では珍しくなってしまってきている手法で進むため、視点が自在に変わります。
そして時系列も飛び、場所も飛び。
言葉の力強さや響き、瞬発力を重視したと思われる文章ゆえ、誰が動いてどうなったのかを見失うことがしばしばあります(管理人の読解力の問題もあると思う)
そして全く話の予想がつかない。この伏線は…とか、この情景にはどんな意味が…とか、考える余地もなくどんどん読者を引き摺りこんでいきます。
予想がつかない話、というのは誉め言葉だと思うわけですが。
しかし、意外と読者にとって予定調和が心地よいときは多いものじゃないかなと。
ハッピーエンドにほっとしたり、次はこうなるのかな…と予想したり。
全体の7割ぐらいは予定調和、残りの3割で裏切られる、ぐらいの話でも読者は十分楽しめるんじゃないかというのが大雑把な印象です。
そこにきてコインロッカー・ベイビーズは、予定調和とはかけ離れた存在です。
情報量が多く、話も大胆に切り替わり、一見脈絡のないようなシーンも挟まり、これでもかと世界観にぶん回されます。
管理人は、このぶん回しに付いていけず酔ってしまった一人…管理人の脳みそでは処理が追い付かず。なんでしょう、考えるな、感じろの精神が正しいんでしょうかね?
なんというか、途中からはスゲー!とは思いつつも、常に疲れる…という感覚が離れなくなってしまいました。
期待は今もしている!
ということで、現在この記事を書いている時点でコインロッカー・ベイビーズを半分まで読んだところです。読了していないのにああだこうだいうのはどうなのかとも思いましたが、名作と言われる作品でも合わない人は合わないのかも…という当たり前な感想を述べるために、恥ずかしながら記事にしてみました。
残念ながら、現状は続きが読みたいというよりは、他の本が読みたいな…という気持ちが強い状態。実際、別の本に浮気しちゃってますし。
ちなみに以前の記事で登場してもらった、文学ピアノレディのクリープ氏はコインロッカー・ベイビーズについて
何回も読み返したよ!名作だよね!
と嬉々として語っていました。途中で挫折しているとは言い出せず。読書の素地が違うのか。
やはり管理人は少数派なわけですよね…一回読むの見も苦労しているのに、読み返すなんてすごいとしか思えません。
とはいえ、この作品の魅力の片鱗を味わっているのも事実。そもそも、ストーリーが途中なわけで本当に自分に合わないかは最後まで読んでから考えるべきな気も。
考えてみれば先日までは「読まなきゃ」と思いすぎていたところもあったかも。肩の力を抜かなきゃ楽しめるものも楽しめませんよね。
一旦他の作品を楽しみつつ、どこかでまた続きを読みたいと思っています。
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最後まで読んで下さりありがとうございました!本日の記事は以上になります@好きな言葉は青色申告。管理人kei