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【ネタバレ無しレビュー】博士の愛した数式 / 小川洋子 なんでこんなに温かい…小説のすごさを存分に感じられる一冊

博士の愛した数式 / 小川洋子 2003年8月29日発売

第55回読売文学賞 第1回本屋大賞

この小説を一言で紹介するなら…
優しい、温かい、愛おしい。読むたびに小説の良さを思い出させてくれる名作。
となりました。

この小説が合いそうなのはこんな人

  • 小説に癒されたい、優しい気持ちになりたい
  • 小説を読んでみようと思ったけど、何を読んだらいいのか分からない
  • あざといストーリー、安っぽいお涙ちょうだい劇はうんざりだ!
  • プロの作家さんの職人芸を堪能したい
 

こんな人にはこの小説は合わないかも…

  • 波乱万丈、心を揺さぶられまくる衝撃的なストーリーを読みたい
  • 冒頭3ページを読んでみたけど食指が動かない
 

 

あらすじ(文庫版裏表紙より)

[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていたーー記憶力を失った博士にとって、私は常に”新しい”家政婦。博士は”初対面”の私に靴のサイズや誕生日を尋ねた。数学が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。
 

 

管理人的レビュー

開始3ページですっかり博士たちのトリコ

この作品を読んでみようか気になっている方、選択のための手っ取り早い方法を提案します。

本屋さんでも電子書籍の試し読みでもなんでもいいので、冒頭の3ページを読んでみて下さい。

微笑む犬

こんな顔になりませんでしたか?

なった方はそのまま買って続きを読みましょう。後悔はしません。

ならなかったけど、なんだかちょっと惹かれる…という方、そのまま買って続きを読みましょう。後悔はしません。

いやぜんっぜん、惹かれない。アンテナにヒットしない、という方。もしかしたらこの作品は合わないのかもしれません…他の作品を検討しますかね。

 

と、最初3ページで決めてしまっていいと言えるほど、冒頭からこの小説の魅力に満ちています。

なにも、特別な事件から始まるわけではありません。

ただ博士と主人公である家政婦と、その息子の三人の何気ないやりとりが描かれているだけなのですが、それが心地いい。微笑ましい。

↓の記事でも触れていますが、読了後にこの冒頭を読み返すと最初の3、4ページで泣けてきてしまうほど。

⇒ 書き出しにすべてを込めろ!読者を惹きつける魅力的な書き出しパターン・テクニック4選

 

このレビューを読むヒマがあったら、作品冒頭の数ページを読んで頂いた方が早いです。本末転倒もいいところですが(笑)

 

小説ってすごい。小川洋子さんがかける言葉の魔法

この作品、管理人は実は映画を先に見ました。といってももう10年以上前の、公開当時のことですが。

その頃は小説を読む習慣がなく、話題作だし見てみるかーぐらいのノリで見たわけですが、感想としては「なんか可もなく不可もなくって感じやな…(映画版ファンの方ごめんなさい)」と思ったことを覚えています。

多少のオリジナル要素はあれど、おおむね原作をなぞっているとの評判。時々、映画化するにあたって大幅に原作改変や省略が成され、原作ファンから大ブーイングを浴びるものがありますがそういった類ではないよう。

ところがところが、今になって原作を読んでみると管理人の印象は劇的に変わりました。

ストーリーは大筋同じであっても、受けた感動や可笑しさはまったく違ったわけです。

決して映画版をディスっているわけではありません。映画という表現をディスっているわけでもありません。ただ、この作品の魅力は、小川洋子さんが連ねた言葉たち以外では生み出しようがないものだと感じました。

本当に1つ1つの言葉選びが繊細で、優しくて、ユーモラスなんです。

以前、小説の書き方のハウツー本にて「優れた小説とは全編にわたる情念のようなものを感じる作品だ」という記述を見たことがあります。

管理人はこの『情念』という言葉を「空気感」というイメージで捉えているのですが…まさしく博士の愛した数式では、どのページを開いても一貫した空気感を感じます。

家でも電車の中でも、カフェでも。つづきのページをめくれば、たちまち博士たちの作る優しい世界に包まれていることでしょう。

この感覚は、管理人は小説という媒体でしか味わったことのない感覚です。

ちなみに、この作品は10か国以上で翻訳され、英訳版も販売されているわけですが。タイトルは『The Housekeeper and the Professor』です。

直訳すると『家政婦と教授』となるのでしょうか。急に無機質な印象のタイトルになりますね。

もちろん英語圏の人にとってしっくりくるタイトルになっているはずで、向こうの方には違和感はないのでしょうが。

言葉選びひとつでずいぶんと印象が変わるものです。母国語でこの作品が読めるというのは、ひとつの幸運なのかもしれませんね。

 

 

物語を彩る、美しく小さなファンタジー

小見出しと矛盾しますが、この作品にファンタジーと呼べる展開は存在しません。

博士の病気が治ったり、ルートが医者になって治療薬を開発したり、ルートが世界最大の数学の謎に挑み、行き詰っているところに博士が流した涙で文字が滲んで数式が解けたり…といった展開はありません。

ありませんが、では全くご都合主義な展開がないかといえば、そんなこともないかと思います。

たとえば、この作品には悪人といえる人がほぼ存在しません。リアリティを追求すると、現実の世界はもっと意地が悪い場合が多いかもしれません。

例で挙げたような大仰なファンタジーこそないものの、そういった意味では小さなファンタジーではないかと思います。

その小さなファンタジーがあざとくなってしまうと、とたんに物語は安っぽく見えて感情移入の妨げにもなってしまうわけですが…。

この作品では、そういったあざとさは一切感じませんでした。それは、やはり作品全体を包んでいる優しい空気が成せる業。

小さなファンタジーが起こったとき、素直に「よかった」と思わせてくれる。博士の愛した数式は、そんな力のある作品なんだと思います。

 

 

管理人的お気に入り度は8点だけど…?

管理人的お気に入り度は8点にしました。ですが、今は10点に近いかもしれません。

何言ってんだこいつ…って感じだと思いますが、これが数字で点数をつけることの難しさであり限界だと思っています。

というのも、管理人は読了直後に点数をつけるわけですが、その時にたしかに8点とつけました。理由は、文句なしに感動したけどちょっと中だるみもあったかな…という点です。9点か迷いつつ8点、といった具合。

ところが、後から印象が変わってくる作品ってやっぱりあるんですよね。

ふとした時にその作品に触れたくなったり、実際に読み返してニヤニヤしてしまったり。

博士の愛した数式は、まさにこのタイプでした。何気なく手に取りたくなり、パラパラと読んでいるだけで初読のときの温かな気持ちが蘇ってきます。というか、読むたび増幅されているかも

というわけで最初は電子書籍版から読みましたが、文庫版も購入するに至ったわけです。

後から印象が変わるたびに点数を変えてしまうとキリがないですし、基準もブレてしまうので点数は変えませんが…。

今や、点数以上に管理人にとって大切な作品になっているのは事実です。こうした点が、作品に点数をつけるということの限界かと。

数字で表せない、管理人が感じた作品の魅力についてはぜひ記事内をご参照いただきたい…というか、またまた本末転倒ですが作品を読んで頂きたいところです(笑)

 

 

管理人的お気に入り度:8/10点

最後に一言:レビューするのが恐れ多くてなかなか書き進まなかった…それでも、誰かがこの本を読むきっかけになったら嬉しい。

本日の記事はここまでです。最後まで読んで下さりありがとうございました!@サブスクという言葉にスク水と似たエロさを感じる管理人kei

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