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【ネタバレ無しレビュー】昨夜のカレー、明日のパン / 木皿泉 名脚本家が描く、等身大の気づきにあふれた一冊

昨夜のカレー、明日のパン / 木皿 泉 2013年4月22日発売

第11回本屋大賞2位

第27回山本周五郎賞候補作

 

この小説を一言で紹介するなら…
名脚本家は小説を書いてもすごかった…優しく染み入る、なにげない日常の幸せに気づける一冊
となりました。

この小説が合いそうなのはこんな人

  • 号泣はいらない。染み入るような小説を読みたい
  • コミカルで愛らしく、飾らない登場人物にほっこりしたい。悪役のいない作品を読みたい
  • 長編は疲れる。手短に読んで楽しめる作品がいい
  • ドラマ「野ブタ。をプロデュース」「やっぱり猫が好き」「セクシーボイスアンドロボ」「すいか」のファン。
 

 

こんな人にはこの小説は合わないかも…

  • 劇的、ドラマチックなストーリーが好み
  • 人間の黒い部分、醜い部分が描かれた作品を求めている
 

 

あらすじ (Amazon商品説明ページより)

悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ―。七年前、二十五才という若さであっけなく亡くなってしまった一樹。結婚からたった二年で遺されてしまった嫁テツコと、一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフは、まわりの人々とともにゆるゆると彼の死を受け入れていく。なにげない日々の中にちりばめられた、「コトバ」の力がじんわり心にしみてくる人気脚本家がはじめて綴った連作長編小説。
 

 

作者は人気脚本家でもある木皿泉さん。ドラマのファンの方は必読!

早速内容のレビュー…に入る前に、本作ではぜひ作者さんについても触れておきたい。

なぜなら、作者:木皿泉さん(夫婦2人での共作ペンネーム)はもともと連続テレビドラマを中心に、評価の高い作品を数多く手がけた脚本家なんです。

連続ドラマの作品は、まずは1988年から1991年まで人気シリーズとして放映された「やっぱり猫が好き」が有名!

アラフォーぐらいの年代には懐かしい!という方も多いのでは?管理人は姉が大ファンだったので記憶に残っています。

ちなみに「やっぱり猫が好き」は恩田三姉妹のやりとりから成るドラマですが、あの恩田陸さんのペンネームは恩田三姉妹から取ったんだとか。

その他のドラマ作品もいずれも評価が高いですが、特に有名なのは「野ブタ。をプロデュース」ではないでしょうか。亀梨和也さんと山下智久さんに堀北真希さんという今思い起こすとなんとも豪華なキャスティング!

修二と彰の青春アミーゴは、カラオケで歌ったという方も多いはず。

そして「すいか」「セクシー&ボイスロボ」は、ぶっちゃけヒットしたとは言い難い知名度ですが、管理人は当時毎週見ていました。

これらの木皿泉ドラマが好きだという方なら…この昨夜のカレー、明日のパンも必読の内容になっていますよ!木皿エッセンスがふんだんに盛り込まれている一冊です。

 

 

管理人的レビュー

それではここからはいつもどおり、僭越ながら管理人がレビューさせて頂きたいと思います。

始めは物足りないのに…? 1話1話を追うごとにクセになっていく感覚

本作は登場人物や舞台を共有する、9編の短編作品から成り立っています。それぞれの短編がつながりをもつ、いわゆる連作短編という形式ということになります。

感覚としては、木皿泉さんお得意ともいえる連続ドラマのような構成。それぞれの短編が面白く、笑えたりホロっとしたりと質が高いことに間違いないのですが、読み始めはやや物足りないという印象も。

ですが、2話3話と読み進めていくうちに、登場人物たちのつながりが分かってきます。

各編の語り手は、いずれも一樹という1人の人物の死を共有している人たちなんです。大切な人を亡くした後、どう生きていくか。

特別じゃない日々の中に、それぞれの人物たちは何かに気づきます。この「何か」は、きっと誰もが気付かなかったり、忘れていたりする、身に覚えがある感覚だと思います。

この気づき自体が共感できるうえ、各登場人物に主役が移ることで、気が付けば読み手も一樹の死を共有しているような感覚に。

等身大の物語と視点、気づきがあるからこそ、読み進めるたびにもっと続きが読みたくなる…もっと登場人物たちと同じ時間を過ごしたくなる…そんなクセになる魅力がたっぷりの作品です。

 

 

大切な人を亡くした後の物語…だけどコミカルで心地いいエピソードの数々

すでに触れているとおり、本作は「一樹という1人の人物の死を共有している人たちの物語」です。

そのため、正直読み始めたときは少し、いやらしいというか、説教臭さや露骨な感動路線の展開になってしまうのかも…という疑いの目から入ってしまいました。

ところが実際は、そんな浅はかなことを考えていた自分を張り倒したくなるような作品に。だいたい、セクシー&ボイスロボなどのドラマを見ても、そんな安い物語を書く方ではないことは承知していたはずなのですが。

大切な人を亡くした後の人生。ドラマチックななにかがあるのではなく、主人公たちは自分の力で状況を動かし、前を向いて過去と付き合っていきます。

笑って泣いて、元気が出る。とことん等身大の物語と、木皿泉さんの軽快な言葉遊び、着眼点が深い共感を呼びます。

 

 

すごく記憶に残る作品かというと…

というわけでここまで絶賛の嵐なんですが、管理人的お気に入り度は7にしました…8か悩みましたが。

なんでや!という話なんですが、理由としてはやはり日常的なエピソードが多いゆえに、強く感情を揺さぶられたり頭から離れないようなインパクトは無かったかなというところから。

ですがですが。恐らくこの作品、読み返すとまた魅力が何倍にもなる作品だと思います。そして、読み返したくなる作品でもあると思います。

また、自分の境遇、感情によっても印象が変わりそうです。しばらく経って再読するのが楽しみな、エピソードよりも感触が心に残る作品でした。

 

 

管理人的お気に入り度:7/10点

最後に一言:この作品自体も、NHK BSプレミアムでドラマ化されています。もちろん脚本を手掛けたのは木皿泉さんご自身

 

本日の記事はここまでです。最後まで読んで下さりありがとうございました!@昔ポケモンセンターで買ったコイキングTシャツを着る勇気が出ない管理人kei