この小説を一言で紹介するなら…
表題作は特に秀逸!平山夢明入門編にはちょうどよいかもしれない、比較的グロ控えめな短編集
となりました。
この小説が合いそうなのはこんな人
- 他にはない、ぶっとんだ作品を読みたい
- 下ネタ、ナンセンスな笑いに耐性がある
- 面白ければなんでもアリを受け入れられる
- くだらない話でゲラゲラ笑いたい
- グロいのが苦手だけど、一度平山夢明作品を読んでみたい
こんな人にはこの小説は合わないかも…
- 下ネタが苦手
- 正当派な作品を読みたい
- 表紙のビニールのヤギに嫌悪感を抱いた人
あらすじ(文庫版背表紙より)
山の麓の売春宿にやってきたオランウータンのポポロと、ヤギの甘汁。動物たちの活躍ぶりに、人間が戦慄する表題作をはじめ、“極限状況”に置かれた人々の悲哀と、そこから見いだした美しい光を、リズミカルな文体と、ぶっとんだユーモアでお届けする“イエロートラッシュ”シリーズ・第二弾の全四編。
管理人的レビュー
表題作だけで一読の価値あり本作は、全く関連のない独立した4編の一冊となっています。イエロー・トラッシュシリーズ第二弾と銘打たれていますが、第一弾とも直接的な関連はないためいきなり本作から読んでも問題はありません。
さて、短編集ということではありますが、本作をレビューするうえで表題作の「ヤギより上、猿より下」を取り上げないわけにはいきません。
これまで数多くのぶっ飛んだ世界観の作品を生み出してきた平山夢明さんだけあって、4作すべてに刺さるものがあるわけですが、表題作のインパクトは頭ふたつほど抜き出ています。
平山夢明さんの作品といえば、グロくて恐ろしく、夜な夜な夢の中にまでこびりついてきそうな読後感という印象がある方も多いのではないでしょうか。
ところが「ヤギより上、猿より下」では、こうしたホラーや流血表現、後味の悪さといったものとは無縁です。
かといって、パンチが弱く凡庸な作品になっているかというと、全くもってそんなことはありません。
舞台はどう考えても現代の設定とは思えない、寂れた売春宿「ネスト」。管理人はかつて存在したという売春島のような風景を連想したりしました。(そんな世界観なのにしれっとDVDやらゴーグル型プロジェクターやらが出てくるのも面白い)
売春宿には3人の淫売がおり、それぞれ「つめしぼ」「せんべい汁」「あふりか」という源氏名。もう源氏名だけで面白い。
主人公の「おかず」に、宿の女将さんと主要人物たちはそれはもうクセだらけ。5人の狂ったやりとりがまた面白い。ちなみに女将さん曰く、淫売は英語の『インバイテッド』という言葉の語源だそう。そんな馬鹿な。
とにかく、終始下ネタ全開ノリノリです。こんな楽しそうに作品を書いてみたいと、謎の羨望を覚えたり。
読者サイドも、ぜひノリノリでこのおバカな話を受け入れましょう。気づけばネストの面々が好きになっているはず。そして意外や意外、最後まで読んだときには不思議な爽快感が待っていますよ。
キレッキレのやりとりたち (ヤギより上、猿より下 から抜粋)
すべての平山作品に言えることですが、言葉選びが秀逸であり、いわゆるパワーワードというもののオンパレードになっています。
いくつかご紹介できればと思ったんですが、なかなかそのワードだけ抜き出しても前後が分からないと伝わらないもの。
というわけで、ある一場面をピックアップしてみました。ネストの女将さんと、淫売のひとり、あふりかのやり取りの場面です。
「履いたって……あんた、お客を履いたらダメでしょう」「尿道を履く」……どういう生活をしていたらいきつく発想なんですかね。女将さんのキレッキレの返しもまた好きです。
「あいつは俺に惚れきってる。しかし、まだ通う頻度が不足だ。更に太い客にするため、信じられない体験をさせる必要があった。新たな挑戦を試みたのだ」
「あの人、チンチン裂けてたんだよ」
「昔、電ツーの奴に聞いたのだ」
あふりかさんが足を浮かせました。見ると爪先に血が付いています。
「あ、あんた……」
「電ツーの奴に聞いたのだ。男は尿道を履いた女を生涯忘れられないと」
「イイイイイ……」
「電ツーは俺の婚約者でもあったのだ。奴も履かれたがっていたが、俺はアフリカへの夢を断ちきれず……」
「いい加減におしよ! あんた、あの人はお客だよ。お客に怪我させてどうするのさ」
(中略)
「莫迦ったれ! 尿道なんか履いたり踏んづけたりするものじゃない! 靴や帽子じゃないんだよ。まして相手は客じゃないか!なに考えてるんだろうね、この子は。ここは工場でもリングでもないんだよ!」
というかこれ、「電〇」の人から本気で怒られないんでしょうかw とんでもない会話の中で連呼してますが。
このやり取りを見て、ちょっと面白そうと思った方は、ぜひ一度手にとってみては。きっとその期待値は軽く超えてくる作品ですよ。
反対に眉をひそめた方、たぶん人として正しい反応です。世の中には面白い作品がたくさんありますので、他をあたりましょう。
短編集トータルとしての評価は
表題作のインパクトが強すぎて、他の3本に触れずにきてしまいました。ですが、他の3本も心配することなかれ、十分楽しめるクオリティをもっています。ただ……どうしても独白するユニバーサル横メルカトルなど、平山夢明さんの代表作といえるものと比べると衝撃度は一歩下がるかも。
そもそも独白するユニバーサル横メルカトルは「このミステリーがすごい!」の1位になっているぐらいの作品ですので、そこを基準にされるのは厳しいところだとは思うんですが。
平山夢明さん作品にしてはグロテスク表現がほとんどないのも特徴です。平山夢明さんの作品に興味はあるものの、グロいと聞いて心配だな……と思っている方にはちょうどいい入門編かもしれません。
過去、管理人は同作者のダイナーに10点、独白するユニバーサル横メルカトルに9点をつけましたが、全体の衝撃度という意味で本作は7点としました。
表題作はほんと大好きなんですけどね。短編集の評価の難しいところです。
管理人的お気に入り度:7/10点
最後に一言:表紙の下、意味が分かるとけっこうヤバイことが書いてあって笑う
本日の記事はここまでです。最後まで読んで下さりありがとうございました!@昔、タイに行ったらレッドブルが30円でした。翼が欲しくなったらタイへ! 管理人kei
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