この小説を一言で紹介するなら…
物語の8割は教授と小学生の会話!ひたすら罪と罰とエゴについて考え続ける。シンプルなテーマの問答なのにエンタメとして魅力的なのがすごい!
となりました。
目次
この小説が合いそうなのはこんな人
- 会話劇が嫌いじゃない
- 優しいゆえに疲れている人
- 小学生に敬語で講義してくれる教授萌えな人
こんな人にはこの小説は合わないかも…
- 息もつかせぬ激しい展開の話を読みたい
- お説教臭いなあ…と感じがち
- 現代社会で特殊能力とか意味わかんないから萎える、という人
あらすじ(文庫本カバー裏より)
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ。
管理人的レビュー
誰もがうやむやにし続けている疑問を、逃げずに言葉で表現しきった名作
『誰かを大事だと思っても、それって結局自分のためじゃない?』とか、『復讐することに意味はあるんだろうか?』とか、どこかで聞いたことがあるような葛藤ネタってあるじゃないですか。船越さんと犯人が崖で対峙したときとか、少年誌とか、下手したらコロコロコミックでもそんなシーンがあるかもしれないという。
本作はそんな、ありふれているといってもいい議論に小学生の『ぼく』が全力で向き合うお話です。
と、こんな紹介文を出されて「読みたい!」と食指が動く方は少数派じゃないでしょうか。我ながら名作を台無しにする一文だなあと思いました。
でも、嘘じゃないんです。『ぼくのメジャースプーン』という作品の8割は、『ぼく』が犯人に対して復讐をするまでの作戦会議の様子を描いていると言ってもよい内容です。そして、そのうえで名作なんです。
上で例としてあげた『誰かを大事だと思っても、それって結局自分のためじゃない?』『復讐することに意味はあるんだろうか?』という二つの葛藤ですが、今さらこれらを大人が考えたって、出涸らしスカスカの水しか出てこなさそうです。
でもよく考えると。これらに自分の中に答えはあるでしょうか? どこかの物語の主人公が高らかに叫んでいたり、それらしい理屈で正論を唱えたり。
そうしたシーンは確かに見たことがあるかもですが、本当のところ、自分がどう思っているのかという点については案外うやむやにして大人になっている気もします。
そんな疑問と戦うことを中二病扱いして、分かったフリになっているだけなのかも。
なぜこうも取り上げられやすいテーマなのにうやむやにして生きて大人になった人が多いのかというと…
言葉にするのがめんどくさいというのが一つにはあるんじゃないでしょうか。
「なんで人を殺しちゃいけないの?」と聞かれて、「そ、そりゃダメだからダメなんだよ」と答えるような。
ちゃんと考えれば答えられるんだろうけど、どうしようもなくめんどくさくて、言葉として整理をしないで生きている。
ところが本作「ぼくのメジャースプーン」は、このめんどくさい疑問に真っ向勝負を挑んでいる作品なんです。とにかく、「ぼく」と大学教授が何度も何度も考える。
その過程と、ふと顔を出す答えのようなものが、心を揺さぶります。
Amazonの作品紹介ページを見ると作者、辻村深月さんの本作に対するコメントが書かれています。
書き終えるまで決めていたのはただ一つ、<逃げない>ということ
間違いねえ! たしかに逃げてねえ!
言葉にしがたくてほとんどの人がうやむやにしてきたことを、見事に言葉で表現しきっています。
これぞ小説にしかできない表現であり物語じゃないでしょうか。同じ脚本で映画化したとしても、たぶん地味で暗い映画という評価にしかならないでしょう。
辻村深月さんの言葉があってこその本作。本当に逃げずに書き上げた辻村深月さんへ、拍手を送りたい気持ちになる作品でした。
ある意味おとぎ話? やや人は選ぶかもしれない設定やストーリー
管理人にとって本作は心に残るお気に入り作品となったわけですが、万人が面白いと思う作品とも違うように感じました。理由の1つは上でも触れたように、ひたすら『ぼく』と教授の問答が主軸であるということ。大きな場面の変化を好む方には合わないかもしれません。
他にも人を選ぶかも…と思った点として、一部の面でリアリティを重視していないということをあげたいと思います。
まず、主人公も教授も特殊能力の使い手ですから。もちろんその特殊能力が物語のキモになるわけですが、特殊能力以外の設定がきわめて現実的なだけに、その不条理さが苦手な方がいるかもしれません。
また、ぶっちゃけてしまえば主人公と、ふみちゃんというキーになる女の子も非現実的といえば非現実的にみえます。
こんなに清く思慮深い小学生がいるだろうか…とか。思ってしまう…けどそこは物語を味わうために、考えちゃいけないところw
本作は、超現実的なところとファンタジーなところがありそうでなさそうでありそうに入り混じる作品です。
下手をすると物語が滑稽になってしまいそうなところを、巧妙なバランスで違和感なくまとめたことで、本作にしかない味が生まれているように感じました。
現実的なテーマの中に絶妙にファンタジーを織り交ぜた本作を、実に上質なおとぎ話と感じるか、非現実的で説教臭くてありふれた話と感じるか…そこで本作への評価は二分するかもしれません。
管理人は前者の立場ですので、何度も読み返したい作品のひとつとなりました。
管理人的お気に入り度:8/10点
最後に一言:辻村深月さんのつけるタイトルはどれもこれも印象深くて素敵ですね。
本日の記事はここまでです。最後まで読んで下さりありがとうございました!@上は洪水、下は大火事なーんだ?と聞かれたAIがヤクルトの1軍と2軍と答えていて笑死するところでした。管理人kei