江戸川乱歩賞 候補作
この小説を一言で紹介するなら…
推理小説新人賞を目指す主人公に訪れた悲劇。どこかシリアスになりきれないところが魅力の心理戦ミステリー
となりました。
目次
この小説が合いそうなのはこんな人
- ミステリーでどんでん返しをくらいたい!
- やってやり返されて、コミカルな心理戦にハラハラしたい
- 新人賞を目指すアマチュア作家の日常を覗いてみたい
こんな人にはこの小説は合わないかも…
- あっさりした文体は物足りない
- 主人公はかっこいいヒーローであれ!
- 探偵役の華麗な謎解きを見たい
管理人レビュー
では管理人が読んだ感想に入ります。まず初めに。この作品を最大限に楽しみたいなら検索はSTOP!
突然ですが、映画とかの宣伝でよくある「ラストシーンに驚愕のどんでん返しが!」って矛盾だと思いませんか?驚愕のどんでん返しを楽しみたいなら、何も知らずに見るのが一番でしょ、と。
この作品も、どんでん返しがあります。って、言っちゃうんかいって感じですが。まあミステリーという時点で予想外の結末は期待したいところではないでしょうか。だから、そこまでは言っていいいうことに勝手にして…。
伏せておきたいところとしては、この作品のジャンルというかなんというか。うまく隠して言うのが難しいんですが、とにかく、検索して情報を得ようものならあるヒントに辿り着いてしまうんですよね。
これ以上説明するとそれ自体がヒントになってしまいそうなのでここまでにしますが、間違いなく言えることは、事前に何も知らない方がこの作品は楽しめる! ということです。
先に情報を仕入れてしまった管理人は、驚き3割減でしたので…まあ、3割減っても十分面白かったんですけどね!
主人公はとにかく小物! しょうもなさがいつの間にか魅力になっていく
本作の主人公は、推理小説家を志して5年、アルバイトをしながら作品を書き続ける山本安雄という男です。山本で、安雄。名前からして小物感がすごいです(同姓同名の方、ごめんなさい。フィクションにしては、という話です)。
三十三歳にして四畳半のアパートに住む彼がついに書き上げた渾身の傑作が、どうやら盗作にあってしまう。山本安雄は犯人に復讐すべく、あらゆる手で相手を追い詰めていく…というのが大まかななあらすじなのですが。
この安雄、基本的にやることがしょうもないです。考えが浅はかで、器が小さくて、女性へのコンプレックスが丸出しだったりします。
ゆえに、最初は感情移入はしづらいです。傑作が盗まれても『まあ日ごろの行いが悪いんじゃね?』ぐらいの感想しかもちませんでした。
ところが面白いことに、話が進むにつれてこの小物感がだんだんクセになってきます。そして、安雄は異常に打たれ強いです。
傑作が盗まれるだけでも十分ひどいのに、安雄には次々災難がふりかかるわけですが…絶対にめげない安雄。しょうもない動機でしょうもない復讐をする安雄。なんかちょっと手応えを感じちゃったりする安雄。
気が付けば、「マジかよ安雄、そんなことまでするのか」「いいぞ安雄、もっとやっちまえ」とか、よくベクトルの分からない感情移入をしていることに気づきます。気が付けば応援してしまっているなんて…もしかして安雄は魅力たっぷりの主人公とも言える…んでしょうか。
管理人的には、感情移入は血迷った結果であり安雄はやっぱりそんなに魅力的ではないと思います。ただ、いつの間にかそんな風に入れ込んでしまうストーリーの可笑しさ、面白さ、パワーがあります。
新人賞を目指す描写がやたらリアル。管理人に再び小説を書いてみたいと思わせた情熱
この作品、初めの30ページぐらいは安雄が小説を完成させるまでの期間を描いています。作品内時間にして実におよそ半年間分。ひたすら安雄が小説と向き合うのですが…この過程がいろんな意味でリアル。新人賞の受賞作を読み漁って対策を練ったり、スケジュールだけは立派に考えたけど全くその通りにいかなかったり…これって折原一さんの実体験なんじゃないの? と思うほどにリアルです。
賞をとった先を妄想したかと思えば、進まない原稿に焦りを募らせてみたり…正直、この30ページだけでも読み物として面白いです。
作家志望として小説を書いている人は、思わず笑ってしまうシーンも多いかも。また、小説を書くつもりなんてないぜ、という方も、読んでみると面白いと思います。
実は管理人、この作品を読むまでは小説を書くことなど諦めていました。13年前に書くのを止めたきり、仕事も忙しいし大変な思いをしてまで書く必要はないかな…と。
ですが、安雄は作品の中で言うのです。
「三十三歳」――新人としてデビューするには、ちょうどいい年齢。と。そして、安雄節のしょうもない受賞後の夢の数々の話…が響いたかはともかく。安雄の小説を書き上げて新人賞を取ってやる! という情熱はガチでした。動機は不純な気もしますが。
あまりにまっすぐな安雄の思考に、「そうか、小説って何歳で書いてもいいんだった」と、単純な管理人は思いました。それが、13年ぶりに小説を書いてみようかなと思ったきっかけです。
盗作疑惑をめぐる結末は…本作最大の魅力、最後まで先が読めない展開
さて、ここまでほとんど安雄の話しかしていない気がして心配になってきました。この作品の魅力の1つが、どこかコメディチックでもある登場人物たちのやり合い、そこから生まれるストーリー性であることは間違いありません。
ただ忘れてはいけないことが1つ。この作品は、ミステリーとして緻密な構成のもとに成り立っているということ。コミカルだからこそ、ストーリーを楽しみながら終盤に入り、気づけば先の読めない展開に驚かされているはずです。
管理人のお気に入り度は6点…その理由は?
※ 若干ですが終盤の展開に触れます。作品を未読の方はまだ見ない方がいいかもしれません。というわけで紹介してきました倒錯のロンドですが…実は、管理人はお気に入り度6点としました。
6点といえば、及第点といったところ。悪くはないけど傑作でもないかな…といったラインです。上であんなに「安雄がクセになる」とか「先が読めない展開に驚かされる」とか言ってたくせに! と、記事のテンションとはややギャップを感じる点数かもしれません。
これに関しては実のところ…ラストの展開の好みです。良い、悪いではなく、管理人の好みの展開ではないな…という話。
ネタばれになるのでどういうところが、とまでは書きませんが…
万人に好まれる展開というのは無いと思いますので。ここは主観的レビューということでご勘弁下さい。
管理人的お気に入り度:6/10点
最後に一言:この作品と出会ってなかったら、このブログも存在していないと思うと感慨深い
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