この小説を一言で紹介するなら…
ゆるい事件の連作短編だと思ったら騙される!? 最後に意外な結末が待つ限界集落ほろ苦ミステリー!
となりました。
目次
この小説が合いそうなのはこんな人
- 人が死なないミステリーが読みたい
- 限界集落の再興に奮闘する公務員の日々に触れたい
- ビターな話を読みたいが重すぎるのは嫌だ
- シニカルな笑いや若干の黒さのある世界観が好き
こんな人にはこの小説は合わないかも…
- スカッとする話、幸せな気分になる話を読みたい
- ミステリーはトリックの質にこだわりたい
- 小説の世界に現実的な社会問題や風刺を持ち込んでほしくない
あらすじ(amazonの本紹介より)
山あいの小さな集落、簑石。
六年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すため、Iターン支援プロジェクトが実施されることになった。
業務にあたるのは簑石地区を擁する、南はかま市「甦り課」の三人。
人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。
出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。
とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。
彼らが向き合うことになったのは、一癖ある「移住者」たちと、彼らの間で次々と発生する「謎」だった――。
徐々に明らかになる、限界集落の「現実」、そして静かに待ち受ける「衝撃」!
管理人的レビュー
ではここから、管理人が読んだうえでのレビューに入っていきます。限界集落に人が集められたとき。興味深い設定と興味の薄れる顛末
まずこの小説の特徴的なところとして、主人公が役所で働く公務員であり、住人がいなくなった限界集落を立て直すという無茶ぶりプロジェクトの一員ということが挙げられます。一見すると地味な題材にも見えますが、何もない環境に都会からの転居希望者を集め町おこしをするというのはDASH村のようなロマンも感じます。
寄せ集めの十二世帯と、商店も存在しない村。ちっぽけなコミュニティながら、その住民一人一人の生活のために奔走する主人公の万願寺には誰もが好感を覚えることと思います。
イチ公務員が、ゼロから始まる地域再生の現場で奮闘する物語…少しわくわくしてきませんか?実際、序盤は期待感をもって読み進めることができました。
が、管理人は読み進めるほどに熱が下がっていってしまいました…最終盤になって意外な展開があるのはさすがなのですが、それまでの間は淡々と読んでいってしまったというのが正直なところです。その理由については後ほど。
ただ、途中で投げ出そうとは思いませんでした。読みやすくテンポのいい文体や、1つ1つのやりとりのリアルさ、所々でさりげなく挿入される小さな違和感などが、自然に読み進めていく方向に引っ張ってくれているのではないかと感じました。
タイトル通りの悲劇の連続。6編の連作短編の満足度は
主人公の万願寺の同僚たちもどこか憎めず、会話が軽快なこともあって総じて読みやすいです。蘇り課というナンセンスな課の名前からも象徴されるように、ニヤリとしてしまうような少し黒い笑いも魅力的。というわけで魅力はたくさんある本作なのですが、前述のとおり管理人は読み進めるたびに本筋からは熱が引いていく展開に。
これは好みも多分にあると思うのですが、6編の短編は基本的にどれもバッドエンド、つまりタイトルにある通り悲劇なわけです。
しかも悲劇の度合いがなんとも微妙な、死人が出たりするわけじゃないけどリアルに誰かが困るという具合。そしてその真相もなんとも後味が悪いものが多い。
特に3章は好きじゃなかった…悲劇でも、ドラマ性なりトリックなり真相なり、グッとくるものがあればいいと思うんですけどね。個人的には嫌な気分の方が目立ってしまう章でした。
もう1つ気になったのは、トリックに『さすがにそれは無理があるんじゃないか…』と思うものが多かったこと。
この作品自体、トリックを全面に押し出したミステリーではないと思うのでそこは流してもいいかと思いますが、気になる人は気になりそう。管理人は気になった。
舞台設定がリアルな日常中心なだけに、無茶なトリックを安楽椅子探偵が結論ありきのような決めつけで推理し、強権を発動していく顛末は、解決したスッキリ感より理不尽なモヤモヤ感が上回るなあという印象。
そんな理不尽さも含めてリアルといえばリアルなのかもしれないですけどね。
結果として、6編の各短編をそれぞれで見たとき、決して満足感の高いものとはいえない感想でした。連作短編なのでトータルで見たときの展開も大切とはいえ、読み進めるうえで引っかかった点なのも事実です。
ただ、『本筋からは』熱が引いていくという風に表現したのは、他に魅力的な部分があったという意味です。万願寺たちのやりとりやシニカルな表現、どこにでもいそうながらどこかミステリアスな同僚たち、そして蓑石は蘇るのか。
これらは読んでいて惹かれるものがあり、バッドエンドが続くストーリーを重くしすぎずうまくバランスをとっていると思いました。
リアルな公務員の悲哀。社会風刺とも思える象徴的なシーンや結末
蘇り課に焦点を当てて進んでいく本作のストーリーですが、読み進めていくと米澤穂信さんが込めたのではないかと思われるメッセージが伝わってくるシーンがところどころ顔を出します。決して押しつけがましくなく、物語を彩るストーリーとして書かれておりドラマ性を生み出していると感じました。
最後まで読み進めたとき、そういうことか…と真相に考えさせられる人も多いのではないかと思います。なんともビターなラストです。そしてある意味リアル。
最後までスッキリさせてくれない、まさしくIの悲劇。この読後感、真相の落としどころというのはこの作品ならではの独特なものがあります。
フィクションだからといって一筋縄では終わらない、現実社会と重なりうる物語。社会風刺も含めたようなこのラストは、病みつきになる人もきっといると思います。
伏線の張り方と意外な結末はさすがのもの
上でも挙げましたが、管理人的には読み始めが一番期待値が高く、読み進むうちに徐々に期待が下がっていってしまいました。ですが、最終章で巻き返しを見せてくれました。このどんでん返しは、なかなかに予想を裏切ってくれたのではないでしょうか。好みは別れそうですが…。
結末が分かってみれば組み込まれた伏線のさりげなさ、巧みさを感じられます。最終章のおかげでプラス1点分は印象が良くなりました。
ただの地方再生の問題点を扱った短編として終わらせず、大きな仕掛けを用意して下さるあたりは、さすがの職人芸だなと感じました。
管理人的お気に入り度:6/10点
最後に一言:そもそもハナから悲劇だと宣言しているわけで、誠実に読者ターゲットを絞った良題だと思う
今回の記事は以上になります。最後まで読んで下さりありがとうございました!@明日は京都で文学フリマ開催!残念ながら行けない管理人kei
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