この小説を一言で紹介するなら…
綾辻行人さんからの挑戦状! 固定観念に捉われていると騙される、悪ノリ満載短編集。
となりました。
目次
この小説が合いそうなのはこんな人
- 読者への挑戦状と聞くとウズウズする。自分で謎を解いてみたい。
- お手軽に叙述トリックを味わいたい。
- 細かいことは気にしないから、さあ騙してみろ!というスタンスの方。
- 長編にない、個性的な世界観の叙述トリックが読みたい。
こんな人にはこの小説は合わないかも…
- 生真面目な方。
- サザエさんのファン。
- メタ表現、内輪ネタが苦手な方。
あらすじ(文庫本裏表紙より)
ミステリ作家・綾辻行人に持ち込まれる一筋縄では解けない難事件の数々。
崩落した[どんどん橋]の向こう側で、殺しはいかにして行われたのか? 表題作「どんどん橋、落ちた」や、明るく平和なはずのあの一家に不幸が訪れ、悲劇的な結末に言葉を失う「伊園家の崩壊」など、五つの超難問”犯人当て”作品集。
管理人的レビュー
では、管理人が読んだ感想に入っていきます。綾辻行人さんからの挑戦状! ルールが明文化されている中での推理勝負!
皆さんは読者への挑戦状というものをご存知でしょうか。ミステリーファンの方であればお馴染みかもしれませんが、ライトなファンの方やあまりミステリーを読まない方は初耳かもしれません。これはミステリー作品の解決編に入る前に作者から「ここまでで全ての手がかりは出そろった」と宣言し、問題を提示するものを指します。
突然フィクションの世界に作り手のメッセージが舞い降りてくるわけで、なんだか感情移入の邪魔になりそう…と思いきや、これがなかなか燃えるわけです。
例えば、「どんどん橋、落ちた」の中のある作品では以下のような挑戦状が叩きつけられます。
問1:〇〇を殺したXの名を当てて下さい。単独犯で、いかなる意味においても共犯は存在しません。作中に名前の出てこない第三者の犯行だったというようなこともありません。
問2:犯行方法は? Xはいかにして〇〇を殺したのか。(後略)
この種のパズル小説の仁義に則り、地の文にはいっさい虚偽の記述がないことをここで明言しておきます。また、いたずらに論理が複雑化するのを避けるため、この”問題”においては、登場するものたちの台詞についても同様のルールを設定しました。すなわち、X以外のものの台詞には故意の”嘘”はない、ということです。
いかがでしょうか。しつこいぐらいにフェアであることを強調し、真っ向からの推理勝負を挑まれるというわけです。
ファンとしては夢ともいえる、綾辻行人さんとの推理勝負がここに実現しています。
ここまで言われた日には、その謎を解いてやるしかないでしょう! ちなみに管理人は5本のうち、1本は犯人もトリックも当てることができました。
短編集ということもあって、難解すぎず、頑張りとひらめき次第で解きうる内容です。到底手の届かない難易度ではないというのがまた、燃えてきますね。
ファンは嬉しい? 一見さんには『?』な内輪ネタの数々
管理人は恥ずかしながら、綾辻行人さんの作品は十角館の殺人しか読んだことがなく2本目に本作を手に取りました。そのうえで気になったのが、内輪ネタやメタ発言の多さ。例えば5編のうちのある作品では、登場人物の名前が十角館の殺人と同じという設定があります。
作中では、この短編を綾辻さん本人が読むというシーンがあるのですが、
「笑えない。全然笑えない。ミステリ・マニアの稚気と云えば聞こえは良いが、読んでこちらが赤面してしまうようなこういったネーミングはちょっと勘弁してほしい」
とボロカスにこき下ろします。
さらには、「人間が描けていない!」と批判します。
実はこれ、当時、綾辻行人さん自身が一部から受けていた批判なんですよね。
要するに、皮肉というか痛烈な自虐というか、嫌な見方をすれば悪ノリともとれるような表現なんです。
他の章では、作者の周囲の実在の人物も出てきます。それだけならまだしも、匂わせぶりな発言をするだけして、作品の中では結局なにも回収されません。
ファンなら分かるのかとも思いましたが、あとがきを読むかぎりほとんどの人が分からない話の様子。そんな話をされても知らんがな…ということで、途中ちょっと読むのがしんどいところもありました。
短編集ということで、かなりラフな気分で書かれたんですかね。ある意味、他のシリアスな作品では読めない味ともいえますが、個人的にはあまり好きではありませんでした。
まあ、21年前の作品ですので当時読めば面白い時事的なものや、ファンならクスリとくるシーンも多いのかもしれません。そういう意味では今になってツッコむのが野暮なのかも。
触れずにいられない、悪ノリ満載なあの一編
それぞれ違ったテイストで楽しめるというのも、短編集のいうところかと思います。中でもダントツで異彩を放つのが「伊園家の崩壊」。ネタバレ無しレビューなので、どこまで触れるか迷いましたが、タイトルと裏表紙ですでに匂っているので言ってしまいます。これ、あの国民的アニメの家族が主役の事件です。
もとい、あの家族とそっくりな「伊園家」で事件は起こります。まー、この一編がとにかく悪趣味。
ブラックユーモア満載であり、世間的に知られている平和な伊園家とは何もかもが違う、クスリと浮気と非行にまみれた、暗く淀んだ目をした家族の話です。
ぶっちゃけしょうもないと言ってしまえばしょうもないパロディなんですが、それを綾辻行人さんが真剣に高い筆力で書くから面白い。
ただ、賛否はめちゃめちゃ分かれるだろうなあ…と。管理人は要所でクスリとくる場面はありましたが、基本的には合いませんでした。
一冊の本に叙述トリックの短編が5本! いずれもしっかり騙してくれる質の高さ
さて、いろいろと否定的なことも書きましたが、もちろんそれだけで終わる作品ではありません。そもそも、よく『叙述トリックの名作〇選』とかのコーナーで高確率で挙げられる本ですから。1冊で5編も叙述トリックが味わえるというのは、それだけでお得感があります。
そして読者への挑戦状など、読者を惹きつける仕掛けも盛り込まれています。また、『伊園家の崩壊』を筆頭に、長編ではちょっと考えられないような個性的な世界観、設定の作品が読めることも魅力ですね。
当たり前といえば当たり前なんですが、長編の叙述トリックものと比べるとどうしても真相、どんでん返しの質は負けているように感じました。ですがその分、常識にとらわれない自由な発想のトリックも楽しめます。
ハマる人には、こりゃあ一本とられた!という感覚が最高5回味わえるわけですから、たまらない本かもしれません。
ただ、上であげたメタ表現や自虐ネタも含め、大らかな心で読むことが肝心です。あまりシリアスなノリで読むのはオススメしません。
管理人的お気に入り度:5/10点
最後に一言:なんだかんだ、エラリィやアガサやオルツィの名前が出て嬉しかった。
本日の記事はここまでです。最後まで読んで下さりありがとうございました!@2年前にフィリピンで作った日焼けあとがいまだに消えない管理人kei
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