第7回ポプラ社小説新人賞受賞作
この小説を一言で紹介するなら…
人の死と向き合う仕事と、その日常に隠されたドラマを描く。重苦しい作風が苦手な方でも読みやすい一冊。
となりました。
この小説が合いそうなのはこんな人
- 特殊清掃の現場に興味がある
- 平易で読みやすい文が好き
- サクッと読める連作短編形式の作品が好き
こんな人にはこの小説は合わないかも…
- 重厚でドラマ性の高い作品を読みたい
- 人間を深く描いた作品を読みたい
- 突き抜けた読後感を味わいたい
あらすじ(文庫本カバー裏より)
気ままなフリーター生活を送る浅井航は、ひょんなことから飲み屋で知り合った笹川啓介の会社「デッドモーニング」で働くことになる。そこは、孤立死や自殺など、わけありの亡くなり方をした人たちの部屋を片付ける、特殊清掃専門の会社だった。死の痕跡がありありと残された現場に衝撃を受け、失敗続きの浅井だったが、飄々としている笹川も何かを抱えているようで―。生きることの意味を真摯なまなざしで描き出す感動作!
管理人的レビュー
特殊清掃という題材を、リスペクトして扱っているのが好意的。人の死のその後の物語
本作は特殊清掃員という、なかなかレアな仕事の現場を主軸に展開されていきます。
特殊清掃といえば、孤独死や自殺、事故などでダメージを受けた現場の清掃、原状回復を目指す業種です。一時期、マンガなどでも話題になったのでご存知の方も多いのではないでしょうか。
なかなか、職業自体が興味深いように感じますよね。まず、死体があった現場ってどうなっているんだろう…という怖いもの見たさの感情が分かりやすいかと思います。
オカルト的な話はあったりするんだろうか…とか、そういった職業の方って病んだりしないだろうか、とか、お休みの日は何してるんだろうな、とか。
言ってみれば、人の好奇にさらされやすい職業なのかなと。もしかしたらyoutubeなんかで、『特殊清掃員が体験した怖い話を語ってみた』とか『すごかった現場ベスト3』とかあっても不思議でないような。
本作に好感がもてるところは、特殊清掃という業務をこういったインパクトの強い内容で面白おかしく語るのではないという点です。
特殊清掃という現場で、人の死と向き合う主人公たちの様子が丁寧に描かれます。相手がすでに亡くなっているとしてもその遺品ひとつひとつに想像力をはたらかせ、悼む姿がカッコいい。
前川ほまれさんは看護師の仕事をしながらこの作品を書き上げたとのこと。人の死と隣り合わせの職業の方が書いた作品だけあって、故人を大切に思うエピソードが多くみてとれました。
平易な言葉選びや短いエピソードの連作からなる構成もあり、重くなりすぎず読みやすい作品となっています。
特殊清掃や、人の死と向き合う仕事について興味がある方は、読んでみて損はないのではないでしょうか。
エピソードや人物は既視感があり物足りないか…
特殊清掃という題材を扱ったという点で魅力的な本作ですが、正直作品自体はあまり心を揺さぶるものはありませんでした。
どこかで見たようなエピソード、漫画的で共感のもちにくい登場人物…当然読み手の好みによると思いますが、管理人としてはあまり世界観に入りこめず、淡々と読み終わってしまった印象です。
総じて、あまり人物を掘り下げきらないままに深いっぽいことだけ言われるという展開が多く、説教臭く感じてしまうことが多かったのも事実です。
また、これは管理人の個人的な背景が原因ですが、あるシーンでかなり萎えるところがありました。
ストーリーの鍵を医療的な仕掛けが握る場面があるのですが、管理人も医療職ゆえ、ツッコミどころが目立ち…。
自分がよく知っている領域だからこそ、たとえ些細な事とはいえ気になってしまうんですよね。ちょっと言い方は強くなってしまいますが、安っぽい盛り上げのために医療的な知識が利用された気がして。
正直、医療職でなければ「へー、そうなんだあ」で済む場面なのでしょうが、管理人は違和感ばかりが残りました。そのとき、ある登場人物が
「そんな薄っぺらい説教垂れて、お涙頂戴か? 所詮、お前たちハイエナの妄想、ホラ話だろーが!」
と怒鳴るんですが、思わず共感してしまいました。いや、そっちに共感しちゃダメなんでしょうけど…
以前、どこかで女性の方の「ある男性作者の作品に出てくる、女性のメイクの描写がめちゃくちゃでそれ以来その人の作品は読む気がしない」という話を聞いたことがあります。
神は細部に宿る、という言葉があるように、些細な引っかかりが物語全体の印象に影響してしまうことがあるのだなと実感しました。
管理人的お気に入り度:4/10点
最後に一言:管理人はこの賞の二次選考で落ちているので、「お前には言われたくない」だろうなあと思いながら書かせて頂きました。
本日の記事はここまでです。最後まで読んで下さりありがとうございました!@松ぼっくりをツマミにビールを飲む管理人kei