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【ネタバレ無しレビュー】ハサミ男 / 殊能将之 魅力はどんでん返しだけにあらず。過程も楽しめる叙述トリックの良作

ハサミ男/殊能将之 1999年8月発売

第13回 メフィスト賞受賞

この小説を一言で紹介するなら…
終盤のどんでん返しだけでなく、地味とされる『承』の部分が意外と面白い。ダークな猟奇殺人と、シニカルな日常場面のメリハリが効いた良作!
となりました。

この小説が合いそうなのはこんな人

  • 殺人犯の思考・精神世界をライトに楽しみたい
  • 叙述トリックの作品を読みたいけど、殺戮に至る病はグロすぎる…
  • 陰キャで頭が良くてサイコパスでどこかちょっとゆるい主人公が好き
 

こんな人にはこの小説は合わないかも…

  • 粗や整合性が気になる。洗練された作品が好き。
  • 主人公の頭の中の話とかどうでもいいからストーリー進めろや!な方。
  • ミステリー作品でも、恋愛や友情などのエンターテイメント性の高い盛り上がりを楽しみたい方。
 

 

あらすじ(文庫版裏表紙より)

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作!
 

 

管理人的レビュー

一番の見所は隠された真相。叙述トリックの名作と言われるだけあり、衝撃度はなかなか

本作をこの2020年に手にとる方がいるとして、大抵の場合はあるキーワードを期待してのものではないでしょうか。

それは、本作を語るうえで欠かせない『叙述トリック』というキーワード。

叙述トリックの作品を読みたいなー、と思い検索をかけるとかなりの確率で↓の4本が紹介されているのではないでしょうか。

六角館の殺人

殺戮に至る病

ハサミ男

葉桜の季節に君を想うということ

もちろん他にも世の中には叙述トリックの名作というものが山ほどあるわけですが、この四冊の扱われ方は特に目立つものとなっています。

叙述トリック四天王といってもよいのかも。(異論は山ほどあると思いますが)

そんな、叙述トリックの話題になるとかなりの確率で触れられる本作ですので…読者が期待することの一番は

騙されたい!

この一点ではないでしょうか。叙述トリック作品サイドからみれば、最初からハードルが上がってしまい大変なことこの上なしですが…

例えるなら、「今から面白いことを言います!」と宣言してからギャグを言わなくてはいけないようなもの。

読者の期待を超えるには相当の驚きやどんでん返しが求められます。とにもかくにも、謎の真相のクオリティが高くないと期待外れとなってしまうでしょう。

そんな高いハードルを課されている本作ハサミ男ですが、そこはさすが叙述トリックの名作のひとつに数えられるだけあります。

恐らく大半の方がその真実に驚くことでしょう。

かくいう管理人も、叙述トリックものは途中で真相が見抜けてしまうことが時々あるのですが、本作はまんまと騙されました。

下で詳しく述べますが、管理人はこの結末抜きにしても途中の展開が面白く感じたため、満足のいく一冊となりました。

この話題に関しては何を言ってもネタバレになってしまうので、ふんわりしたことしか言えませんが…叙述トリックにかなり慣れている方でなければ予想を裏切ってくれるものだと思います。

 

思いのほか面白かった主人公の心理描写

管理人にとって嬉しい誤算だったのは、本作の起承転結における『承』の部分が楽しめたことです。

『承』の部分とはつまり、物語の開始から大きな山場を迎えるまでの間の部分であり、ボリュームとしては物語の大半を占める部分ということになります。

ここでいう『承』の部分は、殺人事件発生から犯人が分かるまでの過程となるわけですが、本作は割と地味な展開が続きます。

基本的に、新たな事件が起きないんです。多くのミステリー作品が、物語の起伏を生むためにも複数の事件が起こることがありがちですが…

本作はそれがなく、ひたすら捜査パートが続くという地味さ。ところが……意外とこの地味なパートが面白かったんです。

何がって、まず主人公の視点が面白い。事件を扱っているワイドショーへの反応や、周りの人たちへの考えがいちいちひねくれています。

ですが、殊能将之さんの筆力やセンスによるものか、ひねくれていても不快感がないんです。

むしろ殺人犯の心の動きや行動を追体験しているような面白さがあり、ひとつひとつの行程が読み応えがあると感じました。

決して本格的に犯罪心理を扱っているというわけではなく、適度にエンタメ性をもって読みやすい範囲に描かれていることも、管理人のようなライトな読書好きには合いました。

この『承』の部分が面白い作品は強い、と個人的には思うんです。なにせ物語の大半は承のパートなわけですから。

大仰な起伏がなくとも面白いという流れのまま読み進めていき、終盤にはついに謎が明らかになるわけです。

叙述トリックという、オチに注目が集中しそうなジャンルの中でも読み応えのある経過で構成されている点は、本作の強みではないかなと感じました。

 

 

ツッコミどころは多々あり。気にしない方が楽しめる作品

というわけでおおむね好印象な本作だったのですが実は、『ツッコミの余地がない完璧な作品か』と言われるとちょっと違うかなと思います。

よくできたストーリーだとは思うんですが、現実的に考えてありえないでしょ…とか、あの描写必要ないじゃん? とか、登場人物の掘り下げなどなど、粗はあるかなと感じました。

このあたりは、人によってはどうしても引っかかってしまうところになりうるかと思いますのが……。

作者の殊能将之さんは本作がデビュー作だったとのこと。むしろデビュー作で、これだけのものを書き上げたという点に驚きました。

ハサミ男のインパクトが強く、比較すると他の作品に焦点が当たることがどうしても少ない印象ではありますが、管理人は殊能将之さんの他の作品も読んでみたいと思えた力のある作品と感じました。

 

 

管理人的お気に入り度:8/10点

最後に一言:二周目を読むとまた楽しいのも、叙述トリック作品の醍醐味ですね。

本日の記事はここまでです。最後まで読んで下さりありがとうございました!@私的なLINEスタンプを作ったものの売り上げ700円な管理人kei