第28回日本冒険小説協会大賞、第13回大藪春彦賞受賞作
この小説を一言で紹介するなら…
短編小説の鬼才がその全てをつぎ込んだ極上エンターテイメント長編! 徹底的に読者を楽しませて「殺しにかかってくる」渾身の一冊!
となりました。
目次
この小説が合いそうなのはこんな人
- 細かいリアリティとか理屈はどうでもいいから徹底的に楽しませてほしい!
- 現実とフィクションの狭間の世界観にグッとくる
- エンターテイメントはどこか漫画チックなぐらいでちょうどいい
- 小説を読んで美味しそうでヨダレが出るという体験をしてみたい
こんな人にはこの小説は合わないかも…
- グロが苦手、暴力シーンが苦手
- しっとりとした癒される小説が読みたい
- 非現実的な登場人物や展開は冷める
あらすじ(文庫版背表紙より)
ほんの出来心から携帯闇サイトのバイトに手を出したオオバカナコは、凄惨な拷問に遭遇したあげく、会員制のダイナーに使い捨てのウェイトレスとして売られてしまう。そこは、プロの殺し屋たちが束の間の憩いを求めて集う食堂だったーーある日突然落ちた、奈落でのお話。
管理人レビュー
では管理人が読んだ感想に入ります。最初から最後まで突っ走る!連作短編のようなメリハリと長編ならではの贅沢な盛り上がり
とにもかくにも面白かった!お見事でした!文庫版で500ページオーバーの、けっこうボリュームもある一冊ですがダレることもなく夢中で読めましたね。平山夢明さんの文庫版あとがきの言葉がそっくりそのままこの作品の性質を表していると思いますので、抜粋してご紹介します。
昔から<殺しにかかってくる>話が大好きだった。それは殺人が起きたり、殺し屋が出るといった単純な意味ではなく、読者に対してグゥの音も出ないほど徹底的に小説世界に引き摺りこみ、窒息させるほど楽しませようとしてくる物語のことである。読者を徹底的に引き摺りこんで『殺しにかかってくる小説』。平山夢明さんが志したとおり、ダイナーを読んだ管理人はまさしく殺されました。
(中略)
でも簡単ではないからこそ、やってみたい。やるなら徹底的にブン回しでやってみたいと思って始めたのが本作『ダイナー』だった。
(中略)
書き上げたときには文字通り<何も残らなかった>。自分の持っているものを総動員して使ってしまったという実感があった。
このあとがきに込められた、平山夢明さんのダイナーに対する思いや自信が伝わってくる感じも含めてこの作品が好きです。
あまりに好きな言葉なので、↑の一言フレーズなどでもできるだけそのまま使うようにさせて頂きました。
さて本作の何がそこまで管理人を惹きつけたかというと、一つはその濃度ではないでしょうか。
平山夢明さんといえば、短編のイメージが強い作家さんです。長編は2000年に書いたメルキオールの惨劇を最後に出ておらず、他の出版物はほぼいずれも短編集というところで2009年に刊行されたのがダイナーでした。
短編となれば、短い作品の中で読者を取り込まなければなりません。平山夢明さんの短編はいずれも、強烈な世界観とアイデアで読者を引きずりこみます。1つ1つの作品がどれも、恐ろしいような切ないような美しいような、強い感情を呼び起こすものになっています。
その平山夢明さんが、書き上げたときに「何も残らなかった」と評したのがこの作品です。
読めば納得、長編でありながらこの作品は、常に大小はあれど山場の連続でありそのどれもが氏の短編小説のように高いクオリティで展開されるのです。
そのうえで短編のようにぶつ切りで終わらない、長編ならではの大きな物語が描かれ、終盤のクライマックスへと盛り上がりを見せます。
長年に渡って強いインパクトを残す短編を書き続けてきた平山夢明さんが、自身の持てるものを総動員して一本の長編を書き上げたのです。面白くならないわけがなかった。
100m走のスプリンターがマラソンに転向したら、100mの速さのままマラソンを走りきっちゃった、みたいな。ズルい。
ただ、スプリンターがマラソンを走りきるのはやはり並大抵のことではないようで、ダイナー以来、平山夢明さんの長編は刊行されていません。
まだ読み切れていませんが平山夢明さんの本を5冊買っちゃいましたので、ぼちぼちと読みながら次の長編を待ちたいと思います。
主要キャラクターから端役まで、魅力的な殺し屋たち
この作品、殺し屋が集うダイナーが舞台となっています。故に、出てくる登場人物といえば9割が殺し屋です。この殺し屋たちが、個性的なキャラクターばかり。北斗の拳の世界から飛び出してきたような分かりやすい輩たちもいれば、小学生の見た目に体を改造していたり、殺し屋のクセして正義の味方のような振る舞いだったり、プレイで赤ちゃん返りを楽しんでいたら元に戻れなくなったなんて殺し屋も。
彼らは、殺し屋ということもあって基本的に凶悪で狂ったようなヤツらばかりです。ですが、狂気だけでなく哀愁があり、時にはどこかコミカルささえ感じられます。
これは1人1人の殺し屋が、平山夢明さんが長年書き続けてきたキャリアの集大成とも呼べる練りこみのもとに書かれているからではないかと考えます。
文庫版の解説にも書かれていますが、殺し屋たちのキャラクター造形は実在した殺人鬼から象っているとのことです。平山夢明さん自身の作家としてのデビュー作でもある、ノンフィクション『異常快楽殺人』の中で登場する人物がモデルだとのこと。
若かりし頃からホラーと向き合い、収集してきたものを惜しげもなく注ぎ込んだものが本作ダイナーというわけです。
実在する殺人鬼から始まって、フィクションとしても狂気を書き続けてきた平山夢明さんだからこそ。殺し屋たちを様々な角度から描くことができ、殺し屋という異常な職業ながら、どこか嫌いになれないキャラクターを成立させています。
ちなみに管理人のお気に入りは夏油、尻焼き、道珍坊の3人組です。3人同じ顔と同じ服装と同じメガネをし同じものしか食べません。主人公の足をバレないように何か所切ることができるかを賭けるという、ダイナーの世界では割と可愛げのある遊び(これでも)に興じています。
極限の緊張状態と秀逸な料理の描写が生み出す臨場感
管理人がこの作品で衝撃だったことのひとつに、料理が美味しそうだったという点があります。サラっと書きましたが、文章だけで美味しそうだと思わせるって物凄いことだと思います。少なくとも管理人は、生まれて初めての経験でした。
しかも並大抵の『美味しそう』ではありません。本当にヨダレが出そうで、主人公に「行け!かぶりつけ!」と謎の感情移入をするレベル。
こんなこと、どんなテレビでも漫画でも記憶にない感情でした。
このダイナーという作品は、特に序盤ですが突き抜けたグロ表現、暴力描写がたびたび登場します。主人公はとことん追い詰められ、読者も張り詰めた緊張とこの先どうなるんだろうという不安を主人公と共有します。
そんな矢先にふとしたことから与えられる絶品の料理。
『生きててよかったあああああああ!』
そんなセリフは原作には無いんですが、管理人の心の声と主人公の声が完全に一致した気がしました。そして、殺し屋が集うレストランに売り飛ばされたというどん底の状況にも関わらず、もっと生きていたい、と思わせるに十分な理由だと感じられました。
繰り返される絶望的な状況と、要所で出てくる料理が伝えてくれる物語のメッセージ。下がってぶち上げられてまた下がって、ジェットコースターのような読書体験です。
緩急の連続が必然的にストーリーにのめり込ませ、リアリティのないはずの作品が臨場感をもってぶつかってきます。この臨場感が、漫画的なキャラクターやストーリーにも関わらず冷めずに読み切ることができた要因ではないかと思います。
管理人のオールタイムベストに(2020年1月現在)
すっかりこの作品の虜になった管理人は気づきました。考えてみれば、純粋に面白いと言えたという意味ではこれまでの読書経験の中で一番の作品ではないかと。正直なところ、様々な切り口がある読書という娯楽の中で、なにをもって一番とするのかという疑問もあります。一番を決めること自体ナンセンスなのかもしれません。
それでも、時に聞かれることがあるはずです。「今まで読んできた中で一番面白いと思った本はなんですか?」と。その時、管理人は間違いなくダイナーと答えます。
と言いつつ、管理人はまだまだ読書経験はひよっこレベルです。2020年もたくさん小説を読んで、ダイナーを上回る作品と出会えることも期待しています。
ダイナー2公開中! まだまだ楽しみな今後とメディアミックス
ななななんと、webで2が公開されているではないですか!心憎いことをしてくれます。
ですが、2019年の6月から更新がないのはどうしたことでしょう…読み始めたいのはやまやまなんですが、最新回に追いついてしまったらと思うとなかなか踏み切れません。続きが読みたくてモヤモヤ死してしまいそうです。
履歴を見てみると、過去にも半年以上更新が止まっていた時期があるようですので、いずれまた再開されるのでしょうが…わがままなファンとしては気が急いてしまうばかりです。
とかなんとか言ってますが、平山夢明さんはぜひご自身のペースでまた渾身の作品を書いてください。
なぜなら、管理人が読まない最大の理由は更新の間隔が空いているからではなく、読み終わってしまうのがもったいないからです…ファンって本当にわがままです。
とはいえ、明日車に轢かれて死んでしまっては、未練で現世に留まってしまいそうですので。ほどよいところで読むようにしましょうね(自分に言い聞かせ)。
さて、2019年には藤原竜也さん主演で実写映画化もされたダイナー。2018年には漫画化もされており、この記事を書いた時点で8巻まで出版されています。
管理人は漫画版は途中まで読んだところですが、〇〇が違う!とか、ついつい野暮なことが気になってしまいます。漫画版単体としてみれば面白いんですけどね。
どんなメディアミックスものでもいえることですが、オリジナルにこだわらず、違いを楽しめるぐらいの大らかなスタイルが一番お得ですね。
なかなか続きを読む時間がとれていませんが、漫画版も続きを追っていきたいと思います。
それにしても、10年前に発売された作品なのに今もなおこんなに楽しませてくれるなんて…ありがたい作品に巡り合えたものです。
管理人的お気に入り度:10/10点
最後に一言:本当はつっこみどころもいろいろあるけど、どうでもいいと思わせてくれるぐらい面白かった
今回の記事は以上になります。最後まで読んで下さりありがとうございました!@「ぅおおおおおれぇえええええはぁぁぁあああここのぉぉぉぉぉ王だっ!!!(藤原竜也)」←ボンベロはそんなこと言わない。管理人kei
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